思わぬ誤解、家族間の壁も…育休取得率0%のベンチャー企業で、初めて長期育休を取った34歳男性の話
社内決裁よりハードだった「妻決裁」
岡田さん:育休取得に当たって、想定外の壁となったのが妻でした。最初は歓迎されなかったんです。社内決裁を通すより大変でした(笑)。 妻は、Webデザイナーとして個人事業主でバリバリ働いています。自宅で仕事をしながら、自分なりの家事や育児のやりくりができていた。だからこそ、私が急に育休を取って、せっかくつくり上げてきたバランスが崩れるかもしれないと不安になったようです。「休暇じゃなくて《育児》休暇だからね」と念を押されましたね。 家事や育児に関しては「新入社員と思ってやりや!」と言われました。妻の指摘に思わず嫌な顔をした時は「はよ会社帰り」と一蹴。「初めは言われたとおりにやって。自分の色を出していくのはそのあとから」との手厳しい指摘も。 でも、話し合っていくと、妻にはパートナー・家族に対する大切な思いがあることに気付かされたんです。 妻は「家族で楽しく生活したい」との思いを強く抱いていた。だからこそ、夫が義務感から育児をしたり、自分を滅して家事負担を担ったり、衝突して嫌な顔をされたりするのを避けたかった。そんなことで家庭の空気がギスギスするくらいなら、自分で工夫して家事も育児も効率的に進めたいと思っていたようです。 岡田さん:妻の思いに触れて、自分の家事育児へのスタンスも変わりました。つい、「いかにタスクを早く進めるか」のみを考えがちだったのですが、「この時間をどう楽しく過ごすか」も同時に考えるようになりました。家事や育児も、それぞれの得意不得意に合わせ、妻と自然と役割分担ができていきましたね。「洗濯物を畳むのは苦手だからお願い。その代わり、3人担いでの送り迎えは任せてくれ!」といった感じです。
よい前例になるために「育休中は仕事をしない」を徹底
岡田さん:現在、10か月間の育児休業の最中ですが、育休中は業務や業務上のコミュニケーションツールに触れないようにしています。 先行事例になるとは「基準をつくる」ということですよね。私が育休中にちょこちょこ仕事に関わったり、会議に出たりしてしまっては、それが基準になり、次に育休を取る人が「育休中でも多少は仕事をしてもらえるだろう」と思われかねません。 もちろん、個人的に子どもについての相談や、育休取得についての相談をもらえば対応していましたが、仕事とは一線を引いています。小さな心がけかもしれませんが、これが長く働ける会社の風土をつくることにつながると思っています。 岡田さん:育休手続き構築のためにハローワークにお世話になったり、給付金制度について調べたり、子どもと子育て広場に通う中で自治体の活動について知ったり……そんな経験を積み重ねるごとに、日本の育休制度や子どもを持つ家庭を支えるさまざまな国、民間企業、NPO法人等の支援の形に気付かされました。 子育て支援は不十分だとのイメージが強いかもしれませんが、私はむしろ育休取得までの奮闘の中で、その手厚さに驚かされたんです。もちろん、100%ということはないかもしれませんが、2016年に「保育園落ちた日本死ね」と言われた時からは、確実にアップデートされている。「(男性でも)育休取れた、日本ありがとう」の時代になりつつあるのではないでしょうか。 そんな実感があるからこそ、視野も行動範囲も広がりました。パパ友付き合いに加え、NPO法人「ファザーリング・ジャパン」で父親の育児支援のサポートにも関わるように。第1子の時に、区の両親学級で同法人の父親向け講座を受けてパパスイッチが一気に入ったんです。自分も助けられたからこそ、プレパパの支援に携わりたいと思うようになりました。 育休取得に関するこの経験があったからこそ、生まれた目標ですね。