この国の医療はどうなってしまうのか…救急搬送率が75歳以上になると跳ね上がる現実
救急搬送者数は2035年頃にピークを迎える
こうした需要の伸びに対して、救急隊員の確保は追いついていない。「消防白書」(2020年版)によれば、出動件数は10年前と比べて29・6%増加したが、救急隊数は6・6%増にとどまる。すでに需給バランスが崩れ始めているということだ。 2020年時点で実際に従事している救急隊員は6万4531人だ。増加傾向にはあるが伸びは極めて緩やかで、過去10年ほぼ横ばい状態にある。救急隊数は増加しているが、そのペースもゆっくりである。少子化による勤労世代の減少を考えれば、救急隊員の採用は年々難しくならざるを得ず、団塊ジュニア世代が退職期を迎える2030年代に入ると深刻な人手不足となるだろう。 そんな予測を裏付ける試算がある。消防庁の資料によれば、搬送者数は2035年頃に現在より1割ほど増えてピークを迎えるとしているのだ。 横浜市は独自に推計をしているが、2030年の出動件数が2015年に比べて1・36倍の24万3304件になるという。横浜市の場合には1回の出動にかかる活動時間は90分で、このまま推移すれば地区によっては救急車が不足するとしている。これは横浜市に限ったことではないだろう。拙著『未来の年表2』でも指摘したが、近くの病院にスーパードクターがいても、そこにたどり着けないのでは「その地に病院がない」のと同じだ。 他方、小規模の消防本部ではすでに搬送者数の減少が始まっており、それに応じて体制の縮小も進んでいる。しかしながら、地方のほうが高齢化率は高く、救急需要が伸びる可能性はむしろ大きい。体制が縮小する消防本部ほど、救急隊員1人当たりの負担が重くなるという状況も生まれている。 政府は広域化を図るなどしているが、消防本部の対応だけでは限界がある。コロナ禍は医療機関の連携の必要性を迫ったが、それは少子高齢社会にとっても不可欠なことだ。救急隊とも緊密な連携をすることによって1回当たりの活動時間を短縮できれば、救命率もあがる。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)