この国の医療はどうなってしまうのか…救急搬送率が75歳以上になると跳ね上がる現実
救急搬送率は75歳以上になると跳ね上がる
コロナ禍が一足早く見せつけた医療の未来図といえば、救急搬送の逼迫もそうだ。大阪府では、患者の受け入れ先が見つかるまでに約2日間を要したという悲惨なケースも発生した。しかしながら、119番通報をしても、なかなか救急車が到着せず、到着しても搬送先が見つからない事態は「コロナ前」から各地で起こっていたことだ。 消防庁の「救急・救助の現況」(2020年)によれば、2019年の出動件数663万9767件、搬送者数597万8008人で、いずれも過去最多となった。 救急車利用が増えている最大の要因は高齢化である。搬送者数のうち65歳以上の高齢者が358万9055人で60・0%を占めた。1999年は36・9%であった。 搬送の理由を見ると、「急病」が65・6%、「交通事故」は6・9%だ。1999年はそれぞれ55・0%と19・3%であり、「急病」が大きく伸び、「交通事故」が減少した形だが、「急病」の増加は自宅や高齢者施設などで具合が悪くなる高齢者が増えたためである。 消防庁によれば、年齢が高くなるほど搬送率は高まる。とりわけ、75歳以上になると跳ね上がる。2019年に搬送された高齢者のうち、4分の3にあたる266万2412人は75歳以上(搬送者全体の44・5%)であった。社人研の推計では、総人口に占める75歳以上の割合はこれから拡大する。 救急車の出動を増やしている1つの要因が、安易な利用だ。「救急・救助の現況」で、2019年の搬送者の傷病の程度を見ると、軽症(外来診療)者が48・0%を占めている。 「タクシー代わりにしている」といったモラルの低さへの批判は昔からあったが、いまやモラルの欠如だけが理由ではない。ここにも高齢化の影が忍び寄っているのだ。 1人暮らしの高齢者が増えて、具合が悪くなっても自力で医療機関に行くことができず、やむなく救急車を呼んでいるケースが増えてきているのである。高齢者数の増大とともに、こうした「不適切な利用」が増加すれば、救急車の台数はさらに不足し、搬送に要する時間が長くなる。2019年の現場到着までの所要時間は全国平均で8・7分、病院収容までの所要時間は39・5分で、どちらも延伸傾向が続いている。