トランプ―プーチン“幻の電話会談”が戦争激化の呼び水に、核の恫喝で領土拡大目指すロシア
北朝鮮も巻き込み戦闘激化
その後の事態は、停戦交渉の本格化をにらみ、占領地域の拡大を目指すロシアと、それを押し返そうとするウクライナの攻防が続いている。 米主要メディアは11月17日、バイデン政権がウクライナに対し、北朝鮮によるクルスク州派兵に反撃するために、ロシア領内に対する米製兵器を利用した長距離攻撃を容認したと一斉に報道。ロシアによる進軍を食い止める目的で、20日にはウクライナ側への対人地雷の供給も決定した。 これに対しロシアは19日、通常兵器による攻撃を受けた際に、核兵器の使用条件を引き下げる方針を決定。21日には、マッハ10を超え、核搭載も可能とされる新型中距離弾道ミサイル「オレシュニク」でウクライナ東部ドニプロを攻撃した。プーチン氏はさらに翌22日、オレシュニクを量産するとも発表した。
プーチン氏が指摘する、〝領土の上の現実〟をめぐる争いである。占領地をどこまで拡大できるか、プーチン氏は核の脅しも使いながら、攻撃を激化させている。ロシア軍の攻勢により、ウクライナ軍によるロシア西部クルスク州の占領地は縮小を続け、ウクライナ東部でもロシア軍の進軍が続く。 一方でプーチン氏は、欧米が自国兵器による対露攻撃を認めれば、核兵器の使用の可能性を辞さない姿勢を強調する。トランプ氏との電話会談で事実上容認されたとみられるウクライナ領土の占領拡大に向け、プーチン氏は最後の〝追い込み〟に入った格好だ。
ウクライナはクリミアの武力奪還を放棄か
ウクライナも、すでにトランプ次期政権側と水面下の協議を進めていることは間違いない。そのひとつが、ロシアが14年に併合した、南部クリミア半島をめぐるウクライナの姿勢の変化だ。 22年の侵攻開始直後は武力によるクリミアの奪還も辞さない姿勢を示していたが、ゼレンスキー大統領は11月下旬、米FOXニュースのインタビューに対し、「占領されたいかなる領土も、法的にロシアのものと認めることはできない」としつつも、「クリミアにおいては、外交交渉により取り返すしかない。クリミアのために、何十万もの人々の命を犠牲にするわけにはいかない」と語った。 クリミアをめぐっては、トランプ氏の元顧問ブライアン・ランザ氏が11月9日、英BBCのインタビューに対しその奪還は非現実的だとして、「米国の目標ではない」と断じた。ゼレンスキー氏は当初、この発言に反発したとされるが、軌道修正を図ったとみられる。 ただロシアが、外交交渉でクリミアを返還する可能性は現時点ではゼロだ。ゼレンスキー氏は事実上、クリミア奪還の目標を棚上げした。 プーチン、トランプの幻の電話会談は、戦争終結に向けた号砲となった。ただそれにより無差別な破壊は拡大し、一歩間違えば、大規模破壊兵器が使用される事態にもつながりかねない。 核を振りかざして世界を恫喝しながら領土拡大を追求するプーチン政権の本質は、来年1月20日のトランプ氏の大統領就任に向けて、一層鮮明になることは間違いない。
佐藤俊介