頼清徳総統の対日認識は良好も政権内部に日台関係を支える人材は乏しい 李登輝世代に頼ってきた日本にも努力が必要
■ 「地下水脈」で中国共産党とつながっていた李登輝政権 ただし、頼清徳も台湾の人々も、日本人も忘れてはならないのは、独裁者の習近平ひとりの判断、あるいは瞬時の思い付きや気分によって、軍事攻撃の発動を命じることができる予測不能なリスクがあること。習近平は6月15日、満71歳の誕生日を迎える。 1995年から96年、江沢民政権の中国が、李登輝政権の台湾近海に向け、軍事演習として史上初めて、弾道ミサイルを撃ち込んだ「第3次台湾海峡危機」が起きた。李登輝は一発の反撃もせず、むしろ米軍の空母派遣を実現させ、静かに危機を回避した。 1990年代初めから共産党幹部や国家主席まで、極秘情報を密かに交換する何人もの「密使」が、李登輝側から派遣された史実がその背後にある。表面上、中台は非難の応酬をしても、地下水脈がつながっていれば、最悪の事態は避けることができる。 いま、頼清徳が率いる新政権に、中国の共産党とどこまで、丁々発止の極秘交渉を行える人物がいるか。少なくとも、年齢が上がるに連れ、「不確実性」が指数関数的に増大していく独裁者、習近平の心が読めるレベルの情報収集力は、必須だ。 頼清徳の新政権が、内政や対外関係で抱える内憂外患は、まだある。ただ、かつて李登輝が、1996年に導入した総統直接選など、民主化によって国際社会における台湾の存在感を押し上げた「ソフトパワー戦略」を成功させたことは、いまも大きな財産だ。 ロシア、北朝鮮、中国という核兵器をもつ大陸の国々に、島国の日本や台湾、フィリピンは近接している。強権主義と地政学的に最前線で対峙せざるを得ない民主自由の社会にあって、頼清徳が国際社会に果たすべき責任は極めて重大である。
河崎 眞澄