ウクライナ軍、まさかの対ロシア「逆侵攻」でいったい何が起きている? 戦争を新局面に移行させた2年ぶりの"奇襲成功"を緊急分析!
昨夏の反転攻勢の失敗以来、防戦一方だったウクライナ軍が、誰も予想しなかった奇策に打って出た。全体の戦況ではまだ優位にいるロシアだが、局所的には明らかに後手に回り、戦争は新たな局面を迎えつつある。 【地図】最新の戦況 * * * ■奇襲開始と同時に〝目・耳・口〟を封じた 2022年秋にウクライナ軍(以下、ウ軍)が大規模な反転攻勢を成功させてから約2年。ウクライナのスーミ州と国境を接するロシアのクルスク州に、ウ軍が8月6日、突如本格的な「逆侵攻」を開始した。 ロシア軍(以下、露軍)のゲラシモフ参謀総長は当初、プーチン大統領に「1000人規模の敵軍部隊が攻勢に出たが、進軍は阻止している」と報告したが、これは大間違い(もしくは真っ赤なウソ)だった。 実際のウ軍は総兵力1万5000人、6個旅団で進軍を続け、そこには精鋭の空挺部隊や特殊部隊も参加していたのだ。 ウクライナのゼレンスキー大統領は19日の時点で、1250平方キロメートル(東京23区の約2倍の面積)の地域を制圧し、多くの露軍兵を捕虜に取ったと発表。さらなる作戦の継続を明言している。 元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)が解説する。 「奇襲が成功した最大の理由は、ウ軍が作戦行動を完全に秘匿できたことです。ウクライナ東部戦線で劣勢に立たされ、戦力不足にあえぐウ軍が新たな戦線を構築して攻勢を行なうことはないだろうと私は考えていましたし、露軍も間違いなくそう思い込んでいました。 ウ軍は奇襲開始と同時に、ドローン攻撃と電子戦で露軍の偵察無人機を無力化。さらに通信レーダー施設を自爆ドローンで破壊し、露軍が情報を収集・共有するための〝目・耳・口〟を封じたのです。これによって露軍は状況把握ができなくなり、増援部隊の運用も混乱しました」 その背景には、ウ軍の綿密な情報収集もあった。 「クルスク州やその隣のベルゴロド州に対しては今年の春以降、ウ軍傘下の『自由ロシア軍団』がたびたび越境攻撃を行なっていました。今にして思えば、あれは単なる陽動ではなく、進軍できる経路の選定や露側の対応など、さまざまな情報を収集する威力偵察だったのです。 実際、ウ軍のクルスク侵攻ルートには地雷原も対戦車壕もなく、基礎訓練を受けただけの士気の低い露軍兵しかいませんでした。そこにウ軍は戦車、歩兵戦闘車の機甲戦力を投入し、精鋭旅団が組織的に攻撃したわけです」 その後もウ軍は増援に向かっていた車両数十両、兵員数百人の露軍予備兵力の車列に、ハイマースからクラスター弾頭のロケット弾を撃ち込んだり、貴重な指揮官がいる露軍の指揮所を戦闘機から爆撃したりするなど、戦闘の主導権を握り続けている。 一方、露軍はウ軍の進撃を止めるべく、ウクライナ東部戦線で戦果を上げている滑空誘導爆弾による爆撃を始めたが、偵察情報の不足により命中率は低く、効果的な攻撃にはなっていないのが現状だ。