【甲子園開幕】炎天下のグラウンドは「死者が出てもおかしくない」…少年野球よりも遅れている高校野球の「酷暑対策」は変革できるか
唯一無二の聖地「甲子園」というジレンマ
高校野球は春夏の全国大会の全試合が甲子園を舞台に行われる。特に夏の大会は全ての都道府県から代表校が出場し、一発勝負のトーナメントで多くのドラマが生み出されてきた。数ある学生スポーツの中でも注目度は段違いで、甲子園はプレーする選手にとっても、熱戦を楽しむファンにとっても、無二の聖地となっている。一方で、その人気の高さやかけがえのなさは、大胆な改革には障壁となりかねない。 「暑さ指数が一定以上なら試合を打ち切るという少年野球の対応は、『安全優先で大会が完遂できなかったとしても仕方ない』という割り切りが可能にしています。かたや夏の甲子園が途中で打ち切られるような事態になれば、出場している選手からも、応援しているファンからも、不満の声が噴出するのは必至です。また、甲子園が替えのきかない聖地である以上、高校総体のサッカーのように開催地を涼しい場所へ移したり、スケジュールに余裕を持たせるために分散開催したりすることもできません。暑さ対策ならドーム球場を使うのが一番いいわけですが、仮に甲子園の代わりに京セラドーム大阪で開催するという案を打ち出したとしても、高野連内部のみならず、選手たち自身や指導者、ファンなどからも理解を得てコンセンサスを形成するのは難しいでしょう」 暑さ対策に取り組まなければならないという理念までは共通認識となっていても、実際に何ができるかという各論に進むと、現実的に実行できる対応策が限られてしまうというのが現状と言えそうだ。とはいえ、命に危険が及びかねない暑さが続いているのは逃れようのない現実で、さらに思い切った対応が望まれる状況であることは間違いない。
試合後に熱中症で救急搬送も
環境省の熱中症予防サイトには、過去5年間の全国11都市の暑さ指数「WBGT」のデータが掲載されている。昨年8月の大阪の数値を見てみると、「危険」とされる31以上が14日、「厳重注意」の30以上31未満が16日もある。 「データにきちんと向き合えば、この時期の日中に屋外でスポーツ大会を行うことを控えるべきなのは一目瞭然です。ドラスティックな改革にはなかなか踏み込めないので、マイナーチェンジを試みながら続けていますが、夏の地方大会も含めて、いつどこで死者が出てもおかしくない。本当に選手や関係者の安全を優先するなら、開催地を見直すなり、ナイターを多用できる態勢を整えるなり、夏場のトーナメント集中開催で日本一を決めるスタイルを見直すなり、従来の在り方にとらわれない発想でリスクを回避しながら開催できる道を模索するべきでしょう。高野連の決断も必要ですが、メディアやファンが『安全第一』という世論の流れをつくり、抜本的な改革に踏み出せる環境を整えることも重要ではないでしょうか」(同) すでにこれまで各地で熱中症によるトラブルは起きている。昨年夏の北北海道大会では、ある高校の選手で熱中症の症状が出て9人に満たない状況となり、没収試合になった例があった。21年の佐賀大会でも延長12回の熱戦後、選手2名が試合後に熱中症で救急搬送された。 高野連は暑さ対策や健康面への配慮を理由に7イニング制導入の検討を始めた。試合時間の短縮によって、1日4試合の日でも2部制が実施できる可能性があると報じられている。伝統の重みと環境の変化のはざまで、難しい舵取りを迫られている高校野球は“持続可能”な形を見いだすことができるだろうか。 デイリー新潮編集部
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