“鳴き声を作る手作り楽器”とは? 「モンハンワイルズ」開発スタジオツアー
2025年2月28日に発売予定の「モンスターハンター」シリーズ最新作「モンスターハンターワイルズ」。今回、その「Chapter 1」の体験やプロデューサーの辻本良三氏ら開発スタッフへインタビューする機会があったのだが、合わせてカプコン本社のスタジオ見学にも参加できたのでご紹介したい。 【画像】スタジオ内を囲むように設置されたカメラで撮影を行い、モーションキャプチャーを通して動きをゲーム内にリアルタイムに反映させる事が可能。アクターの方の動きに合わせて、画面内のハンターが実際に動く映像を実際に拝見する事ができた 今回見ることができたのは、ハンターやモンスターのアクション基盤を作る「モーションキャプチャースタジオ」、BGM等の音楽周りやをモンスターの鳴き声や各種SEを作成している「サウンドスタジオ」と「フォーリーステージ」の合計3つのスタジオ。 クリエイターたちにお話を聞き、作り手だからこそ意識した部分や、シリーズの中でも”ワイルズだからこそ”手を加えたポイントなどを伺えた。 ■ ハンターとモンスター、動きは「モーションキャプチャー」で生まれる 最初に訪れたのは「モーションキャプチャースタジオ」だ。 今作「ワイルズ」のモンスターやハンターのアクションは「モーションキャプチャー」を用いて作成されている。カプコン内にはスタジオがあり、専任のスーツアクターが在籍している。 モーションは、スタジオ内を囲むように設置された専用カメラでアクターを撮影して作っていくのだが、特出すべき最新技術としては、アクターの動きをゲームエンジン「REエンジン」上でリアルタイムに反映する事が可能になった点。これにより実装環境に近い状態でアクションを確認でき、質の高いトライ&エラーを行えるようになったという。 「モーションキャプチャー」によるアクション撮影は、モーションを考えるデザイナー、実際にアクションを行うアクター、総括するプランナーと多くの人員が関わる。そのためゲームへの落とし込みが上手くいかなかったりモーション自体を再考するような場合には、多大なタイムロスを起こす事が多い。しかし、自社内にスタジオもアクターも完備している事でその点もカバーされており、円滑かつ質の高いモーション制作が可能になっているとの事だ。 今回見せて頂いたのは「ワイルズ」でも人気武器である「大剣」のモーションと、「ドシャグマ」や「アイルー」といった人間以外のモーションになる。 モンスター側に「モーションキャプチャー」を活用し始めたのは「モンスターハンター ワールド」からで、今作でもその技術がしっかり活用されている。以前は全て手作業で作成しており、膨大な時間をかける必要があったが、「モーションキャプチャー」を活用し始めた事で時間が短縮されたほか、さらにリアルな挙動と動作のタイミングを表現可能になったそうだ。 キャプチャーの際はゲーム内の「大剣」に模した道具を活用したり、人ではない「ドシャグマ」をキャプチャーする際は体の動きの幅を大きくするといったプロの技法を垣間見る事ができた。 さらに単体のモーション以外にも本作の新要素となる「鍔迫り合い」のキャプチャー風景も見ることができた。こちらの撮影では、ドシャグマ役とハンター役の位置を離し、ハンターの持つ大剣は人が実際に押し返すことで、力が乗った迫力のあるモーションを撮影可能となっていた。 ■ 音楽はシンセサイザーの音色を効果的に使う 次に向かったのはゲーム内のBGMの数々を手掛ける「サウンドスタジオ」だ。 ルーム全体はスピーカーを7.1.4chで配置し、別途で音楽専用の巨大スピーカーも用意されていた。 「ワイルズ」はもちろんカプコン作品の音楽はこの場所から生み出されており、実際にコチラの環境を用いて「ワイルズ」のメインテーマ「美しき世界の理」を聞かせて頂いたのだが、とにかくすごかった。音楽に疎い筆者でも、開いた口が塞がらないくらいには圧倒されてしまった。 こちらでは「ワイルズ」の音楽に関するこだわりを伺う事ができた。 メインテーマ「美しき世界の理」を始めとした様々な音楽に、今作では「シンセサイザー」の電子的な音を強く取り入れているという。「ワイルズ」ではこのシンセサイザーを音楽のコンセプトそのものに取り入れる事で、舞台となる「禁足地」と紐づくような形で意図的に演出しているのだという。 この手法は「禁足地」の設定である激しい環境・季節の移り変わりを表現する為で、変わりゆく自然環境に合わせてシンセサイザーも変調させる事で音楽的にも移り変わりを表現している。 シンセサイザーの音自体も本作の為に作成したオリジナルとなり、美しさの中に少しジリジリとしたノイズ音が混じるような、独特の雰囲気の音となっていた。 この強弱を調整する事で嵐の前の静けさや異常気象が発生した際の重圧的な音、異常気象が収まり美しい自然風景を表現するクリアな音の両方を表現する。そうすることで、「ワイルズ」の独特の世界観と音をマッチさせていたのだ。 ■ 各モンスターの鳴き声は“未知の楽器”が1つずつ使われている 最後に向かったのが「フォーリーステージ」。ここでは主に各種SEと言ったゲームの効果音を生み出している。 「ワイルズ」だとハンターの足音や武具の装備音、特徴的な音としてモンスターの動作音や鳴き声(ボイス)などを作成しており、今回は主にモンスターに関する効果音のこだわりについて伺う事ができた。 まず前提として「モンハン」のモンスターは各々が生物的なバックボーンを持っており、サウンドでもそれらの個性を表現する事を大事にしているという。 例を挙げると「モンスターハンター ワールド」では作風に合わせてより自然な”生き物としてのリアル感”を生み出すことをコンセプトとしていた。そのため、生のライオンやシマウマといった動物たちの音声をベースに作成していたそうだ。 今作「ワイルズ」ではさらにそこからもう1歩進んだ試みとして、リアルな生物感の中に個性的な”違和感”を付与する事に挑戦したという。具体的には、モンスター1匹1匹に対してオリジナルの楽器を作る事で音に面白味を持たせている。 オリジナルの楽器は、どのような音声が欲しいかを事前にイメージしてから作るそうだが、見た目からは音を想像できないような物も多い。実際に作成されたオリジナル楽器の音を聞いてみたが、何とも表現できない独特の音色の物が数多い印象だ。 パイプ同士を組み合わせたものだったり、空気入れとケースが繋がっているものだったり、音も仕組みも、素人感覚ではどのように活用するのか見当がつかない不思議さがある。しかし今回は、目の前でそこから「レ・ダウ」の咆哮サウンドを実際に作るデモンストレーションを行ってくれた。 できあがったサウンドは、どことなく不気味なノイズを纏いながらもしっかり生物としての鳴き声に聞こえるようにデザインされていたので、プロの凄さを実感させられてしまった。 そんな「ワイルズ」のモンスターボイスのコンセプトは「オノマトペで表現できるくらいの個性を作ろう」だという。犬なら「ワン!」ネコなら「ニャー!」と言ったような感じで、モンスターごとにそんな表現が可能になれば、個性としては惹きが強くなると思ったとの事だ。 先述した”違和感のある音”というのがここで重要になり、個性的な違和感を含む音であれば、ユーザーの記憶に残るのではという狙いがあったという。「ワイルズ」に登場するモンスター達は新モンスターも既存モンスターも今回新たに音声を作り直しているとの事で、様々なモンスターのボイスに改めて注目してみるのも面白いだろう。 ちなみに作り手側が想定している「レ・ダウ」の咆哮サウンドのオノマトペは「ずぃーんめーんぎぃょー」だという。また、クリエイター目線で特に聞いてほしいボイスは各モンスターの”威嚇声”との事なので、プレイする際はぜひ意識して聞いてみてほしい。 今回はゲームの体験とは異なり、クリエイター側から見た「モンスターハンター ワイルズ」の魅力について取り上げたが、当然のように各チームで本作に対する強いこだわりポイントを見ることができた。 今回、当たり前のように感じていたゲームの要素要素の1つに様々な意味合いが込められているのだと再確認する事ができた。次に「ワイルズ」をプレイする際には、また違った目線で本作を楽しむ事ができそうだ。 (C)CAPCOM
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