兵庫県 播州産地がオープンファクトリー開催「昔話はもういい。もういっぺん、現場を開く」
同社の2代目である大城戸祥暢 大城戸織布代表は、現在のスタイレム瀧定大阪を経て、1997年に家業を継いだ。公式ページの言葉がその姿勢をわかりやすく伝える。「生産者からの直接販売によってオモシロイものが生まれ始めている。テキスタイルの生産現場には無尽蔵のネタがあり、目指すところは存在感がある布“喋る生地”だ。AIによる織機の革新が進んでも人による手作業やアイデアをしのぐことは不可能で、飽くまで“現場主義”をまっとうする」。
「オモシロイ」生地作りは「ブランドの担当者と1対1で話す」ことに始まり、他との違いを出すための織り方や加工のアイデア、そして大城戸代表自身がフルカスタムした織機(この記事の冒頭写真)などで織り出す微妙な風合いから生まれる。「誰でも買える糸でも数社のものを撚り合わせ、織り方のタイミングを変えれば独特の見え方になる」などと着眼点がユニークだ。気の相手から難しいお題が届けば考えて手を動かし、提案を生み出す。この日も島根で羊の育成から行っている「カサギ・ファイバー・スタジオ」から届いたボリュームのある無染色ウールを前にアイデアを捻っていた。
オープンファクトリーでは第二工場も公開していた。そこには、「フェラーリ程度」を投資した高速織機が鎮座しており、これもまた改造を加えているという。「勉強のためにこれを入れた。この辺りには、生産環境を作るための仲間がいるから、機織りをするには最高の場所だ」。
ひときわ異彩を放つ「イッテンもの量産主義」の「タマキニイメ」
播州産地の中でもひときわ異彩を放つのが、「タマキニイメ(TAMAKI NIIME)」だ。福井出身の玉木新雌デザイナーが2004年に同ブランドを立ち上げ、08年に西脇市に直営店をオープン。10年から染工所跡地である現在の場所へ移し、デザインから染色、織り、ニット、縫製、そして完成品の販売やPR活動まで一貫してこの場所で行っている。社内には畑があり、馬やアルパカがいて、バスケットゴールもある。会社というより大きなアトリエや共同体の趣だ。 屋内は吹き抜け、もしくはガラス張りで見通しが良い。そして床や天井のあちこちにカラフルなメッセージが描かれている。「常に新しい挑戦」「透明性」「tanoしむ!」「変態モノづくり集団」など。「イッテンもの量産主義」とあるように、基本は一人の作り手がひとつの服を一貫して担当する。使う機械の調整も自分で行う。「すべての職人が、一点物という最小SKUを最初から最後まで一貫して手掛ける。もちろん最初はできないこともたくさんある。結果できるようになって、次のステージを目指す人は多い。ここでの3年の経験は“ヤバイ”と思う」と玉木デザイナーは言う。編み機の上には編みかけの生地が残り、ミシンの周りには個人の部屋のようなデコレーションがある。いたるところに人の存在感を強く感じる独創的な「工場」だ。