英国債急落、予算案がインフレ押し上げ・利下げ抑制との見方
Andy Bruce David Milliken [ロンドン 31日 ロイター] - 31日の債券市場で英国債価格が前日に続き大きく下落した。労働党政権が発表した大型の来年度予算がインフレ率を押し上げ、イングランド銀行(英中央銀行)の利下げペースが鈍化するとの見方が広がった。 リーブス財務相は30日、公共サービスの立て直しが必要だとして過去30年間で最大の増税計画を発表したほか、財源確保に向けて借り入れを増やす方針も明らかにした。 予算責任局(OBR)は、予算は短期的に経済を加速させるがインフレ率も上昇させ、来年の消費者物価上昇率を0.5%ポイント押し上げるとの見方を示した。 OBRは来年のインフレ率を平均2.6%と予想し、従来予想の1.5%から引き上げた。これを受けて市場では利下げ観測が後退した。 英2年債利回りは一時22ベーシスポイント(bp)上昇し、4.539%を付けた。上昇幅はその後11bpに縮小したが、それでも4週間ぶりの大きさとなった。 10年債利回りも一時4.526%と1年ぶりの水準に上昇。独10年債との利回り差は208bpを超え、トラス元首相の「ミニ予算」を受けた市場の混乱が続いていた2022年10月以来の水準に拡大した。 BNPパリバ・アセット・マネジメントのグローバルソブリン・インフレ・金利責任者セドリック・ショルテス氏はもはや英国債をオーバーウエートにしていないとし、全体的な借入額は意外ではなかったが、支出拡大の前倒し、最低賃金引き上げ、事業主の雇用コスト増加はインフレを押し上げると指摘した。 ただ、トラス政権が財源の裏付けのない減税や支出を打ち出した際と比べ、今週の英国債価格下落は小幅にとどまり、2年物など短期債が中心となった。 これは財政を巡る長期的な懸念より、英中銀の利下げ観測後退が背景にあることを示唆している。 <利下げ観測後退> JPモルガンのエコノミスト、アラン・モンクス氏は「英中銀の2年間の予測期間中に、需要とインフレ率は予想よりも高くなるだろう」と述べ、金利を徐々に調整する方針を修正することが難しくなるとの見方を示した。 11月7日の金融政策委員会(MPC)では0.25%ポイント利下げする可能性が依然高いとみられているが、来年の見通しは不透明感が強まった。 先物市場では、英中銀が来年末までに0.25ポイントの利下げを4回程度行うと予想されており、予算案発表前の5回程度から減少した。 これに対し、米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)は5回程度の利下げが見込まれている。 オックスフォード・エコノミクスの英国担当チーフエコノミスト、アンドリュー・グッドウィン氏は、英中銀が7日までに予算の影響を新たな経済予測に完全に反映させる時間はなさそうだが、大まかな推計は出すだろうと予想した。 「来年はGDP成長率が高まるというOBRの判断に(MPCが)同意すれば、今後1年間の利下げ加速を正当化するシナリオを構築することが難しくなるかもしれない」と述べた。 一方、予算案に対する国債市場のネガティブな反応は一時的との見方もある。PIMCOのエコノミスト、ペダー・ベックフリス氏は、「市場の関心は財政からインフレの緩和など根本的なマクロ経済要因に移っていくだろう」とし、「時間がたつにつれ、市場が織り込む政策金利の最終到達点が低下していく」と予想した。