【「光る君へ」本日26話】格差社会を生きた「光る君」ご一家の「お受験」事情
6月30日放送の大河ドラマ「光る君へ」ではいよいよ、藤原道長の娘・彰子が一条天皇に入内。遠からず、まひろ(紫式部)がこの彰子に仕えることになり、「源氏物語」の執筆が始まるはずだ。 平安貴族は、男子は官人(政治家兼公務員)か僧侶、女子は主婦(一家の女主人)になるものと決まっていた。トップ・オブ・トップ貴族である藤原道長の一族では、娘が次々に天皇に入内していくが、これも後宮(后妃らの住む宮殿)の女主人である后(中宮ともいう)まで出世することを目指しての、いわば「就職」である。このような将来に備え、貴族の男児は漢学、女児は衣服の調製(染色法や製糸、縫い物)を習った。そのほかには何を、どこでどのように学び、その「学歴」はどう評価されたのか。『源氏物語もの こと ひと事典』(砂崎良・著)から紹介したい。 *** 夫の装束の仕立ては妻の仕事で、当時の女性にとって、「夫の装束」は縫いや色のセンスを含め優秀さのみせどころであると同時に、自身と実家の力量を示す機会でもあったということは、6月23日に公開した記事【「光る君へ」本日25話】踊って出世「庭の清掃」が権力の証 現代の常識で捉えきれない源氏物語の世界に詳しい。 男女共に必須のスキルは、書道や和歌。教育は基本的に各家庭で行われたため、親や近しい親族がその技能にたけていて子どもに教授できるか否かで差がついた。親にかわいがられている子はそうでない子に比べて、圧倒的に有利だった。平安皇族・貴族の社会では、授かっている位階や官職などに応じて国から給料を支給される。よい位階・官職に就けた者は、富や人脈を手中にし、子どもによい教育をほどこせる。平安遷都から200年以上、この制度をたもってきた都では、「家柄がよいと教養があって優秀」と見なされるほど、格差が拡大・固定化されていた。
だが、「源氏物語」で光源氏は、息子の夕霧の官人生活を六位という低い身分からスタートさせ、「大学寮」で漢学を専門的に学ばせている。光源氏は飛びぬけて高貴な権力者、望めば夕霧を四位にもできたのだから、この時代の貴公子には珍しい苦学コースである。作者である紫式部の漢学者の娘としてのプライドや、名門の子弟の早すぎる出世への批判精神が感じられるエピソードだと言っていい。 「光る君へ」でも、高杉真宙演じるまひろの弟・藤原惟規が大学寮に学んでいる。この「大学寮」とは、官吏の養成を行う学校のこと。中国の歴史や文学を学ぶ「紀伝道」、論語や孝経などから儒教の教えを学ぶ「明経道」、律令制を中心に法律にまつわる教育を行う「明法道」、中国古代の『九章算術』などを教科書に算術などを学ぶ「算道」の4教科(四道)があり、卒業して「寮試」と呼ばれる試験に合格すると、擬文章生(ぎもんじょうしょう)になり、さらに「省試」に合格すると、官吏として仕事に就ける文章生(もんじうしょう)になった。 夕霧に苦学コースを歩ませた光源氏だが、娘の明石姫君や養女の紫上・玉鬘(たまかずら)には、琴(弦楽器の総称)や書道を教えている。この時代の上流階級の姫君は、「一に書、二に琴、三に和歌が御学問」といわれていたため、こちらはスタンダードな教育方針。女性キャラの中でも、雲居雁(くもいのかり)や浮舟は琴が不得手で、育ってきた環境がよくないことを示している。 (構成 生活・文化編集部 橋田真琴/イラスト 鈴木衣津子)