絶滅危惧種の小型チョウ「ミヤマシジミ」長野南部の町で復活へ
絶滅危惧種のチョウ「ミヤマシジミ」が、長野県の上伊那郡・辰野町で増加に転じているようです。辰野町を含む長野県南部は、ミヤマシジミの国内生き残りの最後の砦(とりで)とされる地域。8月28日に行われた研究者や住民による報告会と観察会では、ミヤマシジミの貴重な交尾の様子も確認でき、住民らは「もっとミヤマシジミが舞う町に」と、保護・再生の誓いを新たにしていました。
幼虫が食べるコマツナギを植える
ミヤマシジミは羽を広げた大きさが2~3センチほどの小型のチョウで、関東から中部地方の本州中部に分布。この日は住民らでつくる「辰野いきものネットワーク」(土田秀実会長)と「ミヤマシジミ研究会」(会長・中村寛志信大名誉教授)主催でミヤマシジミが生息する同町の荒神山公園内の会議場で開催。町内外から50人が参加しました。 同町では草地の減少など環境の変化でミヤマシジミが激減。2015年度、同町荒神山の農業用ため池の改修工事の際に、ミヤマシジミの生息場所を復元する目的で、幼虫が食べる植物「コマツナギ」を堰堤(えんてい)に住民らが植えました。 その結果、ミヤマシジミの姿が目に留まるようになり、土田会長はこの日「今年2016年のミヤマシジミは2013年の3倍ほどに増えた。1回の調査で見つかるミヤマシジミも2013年の1頭台から今年は10頭台にまでなった」と復活の動きを報告しました。 会場近くの荒神山のため池周辺で行った観察会では、ミヤマシジミの交尾の様子が相次ぎ確認され、研究者や住民らは「貴重な場面だ」と盛んにカメラに収めていました。
「最後の砦」である長野県南部地方
チョウの研究を続けている帝京科学大学専任講師の江田慧子(こうだ・けいこ)氏は講演で「ミヤマシジミは東京で絶滅し、静岡、山梨でもいるはずの所で見当たらない。保護が期待できる最後の砦が南信地方(長野県南部)だ。県内各地に一部残っているミヤマシジミも地域によって異なる遺伝子をよく調べなければ、保護のためだからとほかの土地へ移動させることもできない」と、保護の難しさを指摘していました。 江田氏はさらに「辰野町でミヤマシジミが回復したので、サンプルをいただければ今後の研究の支えになる。その研究結果を還元することでミヤマシジミの保全が進むことになる。保全は“人”にかかっており、取り組む人がいなければ進まない」と、これまで協調してきた住民、研究者やコマツナギの植栽に理解を示してきた町、県への期待を表しました。 ミヤマシジミ研究会の中村会長は「ネットワークと研究会で食草のコマツナギを300本移植した。新しい生息ポイントになるよう期待したい」。食草のコマツナギを自宅で育てて150本ほど持参したという岡谷市の自営業男性(68)は「以前に絶滅危惧種としてニュースになったときから関心を持ってきました。少しでも役に立ちたい」と話していました。
----------------------------------- ■高越良一(たかごし・りょういち) 信濃毎日新聞記者、長野市民新聞編集者からライター。この間2年地元TVでニュース解説