「鉄道の日立」、世界で無人自動運転 M&Aで英国発1兆円企業へ
それが無線式列車制御システム(CBTC)と呼ばれる技術である。無線通信により、列車の位置と速度を把握し、最適な速度に自動制御することで、安全な列車間距離を確保する仕組みだ。 先行列車と後続列車が一定の距離で走り続けることができれば、無駄に停車して時間調整をすることなく、過密ダイヤを組める。遅延からの回復も早まるという。 このCBTCをコペンハーゲンメトロに導入したのがイタリアの信号システム大手、アンサルドSTS(現日立レールSTS)だった。日立レールは15年、アンサルドSTSと、イタリアの鉄道車両メーカーであるアンサルドブレダ(現日立レールSTS)を買収。欧州大陸で飛躍する足掛かりをつかみ、鉄道の無人自動運転ではトッププレーヤーにのし上がった。 *編注:買収後にアンサルドSTSは日立レールSTSに、アンサルドブレダは日立レールイタリアに改名後、日立レールSTSとなった。 24年にはフランスの電子機器大手タレスの地上輸送システム(GTS)部門の買収を完了。25年3月期の日立レールの売上収益(売上高)は1兆1469億円と、初めて1兆円を超える見通しだ。 ●ロンドン発の多国籍企業へ タレスのGTS部門が加わり、売上高に占める信号事業の割合は57%に増加。もはやただの車両メーカーではない。信号システムを含めた運行管理や保守点検で稼ぐ企業へと変貌を遂げた。 日立レールの本社機能は英ロンドンにある。M&A(合併・買収)で拡大し、今や英国、イタリア、日本、米国を中心に世界51カ国で事業を展開。従業員数約2万4000人の大所帯となった。 「日本人以外が大多数になり、すごく面白い企業になってきた」と語るのは、02年から英国に駐在する日立レール車両部門最高技術責任者(CTO)の我妻浩二氏だ。 日立レールでは世界各地にプロジェクトリーダーが点在しており、「きちんと仕事を全うできるのであれば、どこに住んでいても構わない」(我妻氏)という。「僕が英国にいるように、日本に英国人、米国にイタリア人がいてもいい。究極の適材適所で成り立っている」 我妻氏自身、月の半分は英国外へ出張し、ウェブ会議を駆使しながら世界各地の拠点と密にコミュニケーションを取る。特に設計チームは、時差をうまく活用して24時間体制で稼働を続けている。 納期や品質を守り抜く日本のものづくりを強みとし、時には果敢にM&Aを仕掛けて仲間を増やしていった。「どんどん前に突き進む欧州のイノベーティブ(革新的)な精神を取り入れながら、日本クオリティーでしっかりとやり切る。ちょうどいいコンビネーションになっている」と我妻氏は分析する。 ロンドン発の多国籍企業へ。日本が生んだ鉄道技術は世界で磨かれ、さらなる進化を遂げている。
酒井 大輔