「そこに黄金期のアメリカが宿っている」ヴィンテージ・ジッパーの宇宙
ヴィンテージアイテムの最大の魅力は、その裏側に「ストーリー」があることだろう。時代背景、当時のトレンド、失われた素材や製法。そこには時にラグジュアリーブランドをもしのぐ分厚い情報が隠され、その歴史的価値を読み解く愉しみがある。 なかでも本記事では非常にニッチなヴィンテージアイテムを紹介しよう。「ジッパー」または「ファスナー」だ。 多くの服にとってはアイテムの一部分にすぎず、注目されることがほとんどないであろう存在だけにその魅力が語られることは少ないが、このパーツにも人生をかけるほど夢中になったコレクターがいる。そして、コレクターたちしか知りえない奥深さがある。 今回アメリカ製品の販売に携わってきた「UNION MADE」に取材。秘蔵のアメリカ製ヴィンテージ・ジッパーを紹介しながら、この小さなパーツの歴史と、主張することのない細部にこそ光る技術を聞いた。
知られざる「ジッパーのヴィンテージ」
ーUNION MADEというショップについて教えてください。 アメリカ製のワークシャツ、ジャケットを扱ってきましたが、今はアメリカの前世代のジッパーの販売に力を入れています。1950~80年代のアメリカ製品を中心に揃え、リペアが必要な方、アメリカ製のジッパーに魅力を感じる方に販売しています。
ー特にヴィンテージ・ジッパーの種類の豊富さ、なかでも数十年前のデッドストックのコレクションに驚きました。現在では入手が難しいジッパーもあると思いますが、扱い始めた経緯は。 主にはTALON、Scovillのヴィンテージを扱っています。収集は人づてやオークションなどどんな手段でも。商品を持っている人、仲介できる人を探して入荷していきます。 当店が古い年代のジッパーを扱うようになったきっかけは、自分の服をリペアするためでした。大切なアメリカ生産のレザージャケットやパンツのパーツが壊れ、修繕が必要になった際の予備部品としてジッパーを確保していましたが、時代とともに部品がどんどん入手しにくい状況になり、お客様からも要望が出始めたのです。「生産した当時のジッパーで直したい」と。 ー年代やブランドを追うだけではなく「当時の部品で着続ける」というこだわりがあると。 そうです。もちろん、現在販売されているジッパーも品質は非常に優れており、使用にはまったく問題ありません。デザインを復刻したリプロダクションの製品も出ています。 しかし、かつて日本人を夢中にさせたアメリカ製品の最大の魅力は「質実剛健=Heavy Duty」でした。その雰囲気、品質も技術も強く輝いていた憧れのアメリカを体現するには、復刻デザインではつけることのできない「USA」の刻印が不可欠です。ジッパーという目立たない部品を身に着けることでしか実感できないアメリカ文化もあるように思います。 ーこうしたジッパーが特に映えるウエアはありますか。 1960~70年代のアメリカ製品のなかでもデニムやキャンバスダックのワークウエア、またミリタリーウエアでもあえて「本物」でなく、ALPHAやSPIWAKなどの民生品のミリタリースタイル(M-65やMA-1など)に装備されている姿はいかにも惹かれます。 もちろんレザージャケットにも映えます。あまり知られていませんが、当時のジッパーの素材の代表格であったブラス(真鍮)は現在と異なる製法で製造され、経年変化で輝きが鈍る独特の味わいがあるのです。一方で、輝きすぎて見えないくらいのアルミ素材のジッパーもまた格別のコンビネーションだと思っています。 同じレザージャケットでもSchottはアルミ主体でしたが、AERO Leatherはブラスのジッパー、Vansonの日本での隆盛期は南米製TALONが装着されていました。