号泣する人続出!バイトが続かないヤンキーと一人の転校生が抱く「生きづらさ」
第1巻発売からわずか半年で、マンガ大賞2024大賞を受賞されたマンガ家・泥ノ田犬彦さんの『君と宇宙を歩くために』(アフタヌーン/講談社)。本作は、“普通”ができない正反対の2人がそれぞれ壁にぶつかりながらも楽しく生きるために奮闘する友情物語。 【漫画】「泣いた」の声続出!マンガ大賞2024大賞受賞『君と宇宙を歩くために』 SNSでは、「読むたび何度でも泣いてしまう」「本当にこの漫画がこの世にあってよかった」といった読者の声が多数寄せられています。 5月22日には待望の第2巻が発売! FRaU webでは特別に、著者の泥ノ田犬彦さんに本作が生まれた背景や作品に込めた思いなどさまざまにお話を伺いました。試し読みとともにお届けします。 マンガ/泥ノ田犬彦 文/FRaU編集部
みんなにとっての「普通」がうまくできない
▼あらすじ 勉強もバイトも続かないドロップアウトぎみなヤンキーの小林。ある日、彼のクラスに宇野が転校してきたのだが…… 自己紹介の際、いきなり大音量で挨拶をする宇野の姿に「ヤバいヤツ……」という印象を受ける小林。早速その自己紹介が話題になり、他のクラスの友達との間でもウワサの的に。 そんななか、小林は今日もバイトがうまくいかず、バイト先の先輩たちに陰口を言われてしまう。「小林に片づけ頼んだんだけどまたミスってんの?」「まじで同じ給料貰って欲しくねーよなー」。耳に入ってきたそんな言葉に、「…他のバイトは皆簡単そうにやってんのに…なんで俺は間違えるんだ?」「短気なんだ 向いてなかったって皆笑うけど じゃあ俺は 何に向いてるんだ」とこれまでいろんなバイト先で同じようにうまくできなかったことを思い出しながら歩く小林。 そんな矢先、先輩に怪しいバイトを紹介され、「カンタンなら俺にもできんのかな…」と心が揺らいだその時、バッタリ遭遇した宇野に助けられ、一緒に帰ったことをきっかけに2人は仲良くなっていく。 宇野のことを知れば知るほど彼の生き方に惹かれ、自分も変わろうと行動する小林だったが……。 ーーどんなきっかけで本作が生まれたのでしょうか? 主人公の宇野くんというキャラクターがいるのですが、宇野くんみたいな子が日常を歩み続けている作品があったらいいな、読んでみたいな、と思ったことがきっかけの1つです。その対になる形で小林くんというキャラクターを作りました。像としては宇野くんが先に出来ていたのですが、描きたい感情としては小林の持っているようなものが先に出来ていたので、それを合わせる形で主人公にしました。 ――本作を描く上で、担当編集の方と「こんな作品にしよう」など、話し合ったことがあればぜひ教えてください。 当初担当編集さんからは「感動とかじゃなくてもいいから、心が動く話を描いてほしい」と言われていました。「感動作!」みたいなラベリングがお互いにあんまり得意ではない感じだったので(広告とかではわりと使われていますが……笑)、そうではないテンションのものが描きたいですねということは話し合いました。ただ出来ているかは未知です。力不足な面も多々あるので、注意しながら描いていきたいなとは思っています。 また個人的に気をつけていることは、抜きん出た天才! みたいなキャラクターにしないようにしています。特出したキャラクター性を持つ子たちは同時に秀でた才能を付与されていることが多い気がするのですが、そうでない話が1つあってもいいのかなと思っています。あくまで隣のクラスにいそうな雰囲気を保ちながら描けたらいいなと考えながら制作しています。 ――「うまくやりたいのにいつもそれができない」「他の人が普通にできることが、なんで自分には上手くできないんだろう」……そんな“人と同じようにするのに工夫が必要”という個性を持った2人を中心に描く上で、意識されたことがあれば教えてください。 元々読み切りの予定だったので、連載が決定してから決めたことなのですが、同じ失敗や悩みを描くようにしています。例として小林くんは勉強やバイト先での悩みを持っていますが、1日で全てが解決して良くなるわけではないのでその時々で悩み、なんとかその日を乗り切って……という風に描いています。 その際に、個人の気合いや努力だけではなく何か外部の力(仕事の手順書を作成する、先輩からコツを教わる、人と協力する)を入れるようにしたいなと。やる気だけで解決しない悩みがあること、その場合は外部の力を得ることがとても大切だということを描いておこうと思っています。 もちろん作中でやっていることはとても初歩的なことなので、読者の方からすると描写がぬるいと感じる方もいるとは思うのですが、その選択肢が存在するところを描けたらいいなと思っています。 また、そういう風に工夫をしながら人生を歩いているもう一人の主人公の宇野くんを小林が「かっこいい」と思っているところは描いておきたかったポイントです。彼はとてもかっこいいんです。そして彼のように生活をしている人はみんなかっこいい! と読者の方に思ってもらえたら、それが一番嬉しいです。 ーー作中に登場する、「上手にまっすぐ歩けない それを笑われたり怒られたりすると怖くて恥ずかしい気持ちになります」「迷惑かけるのは恥ずかしい わかってねえのがバレるのは怖い」というセリフに非常に共感しましたし、代弁してもらったような気持ちにもなったのですが、泥ノ田犬彦さんご自身が体験したエピソードやその時に感じたことなどをもとに描かれたりはしているのでしょうか? 私自身テキパキ動くことがとても苦手なので、部活や仕事、人間関係でいつもそんな気持ちになっていました。学生時代なんかは特に自分の感情を言語化することが今以上に苦手だったので、ずっと悩んでいたのですが、大人になってから「怒りが湧くのは怖いことの裏返しなのかもしれないな」と思ったことがありました。そこが小林を描くきっかけの1つとなったんだと思います。 ーー自分とは違うから、と突き放したり嘲笑するのではなく、お互いの違いを理解し合おうとする登場人物たちの姿に胸を打たれると同時に、実生活でもこんなふうに支え合い歩み寄れる自分自身でありたいし、そんな社会であってほしいとも感じました。泥ノ田犬彦さんが本作を通して読者に届けたいメッセージがあればぜひ教えてください。 このお話では主人公たちがものすごい活躍をしたり、世界を変化させたりはしません。ですが、2人が自分の歩く道を見つめて、自分なりに進んでいこうとしている姿は、きっととてもかっこいいものではないかと思っています。悩みや葛藤、そして嬉しいことや些細な楽しさなどを、できるだけ等身大で描けたらいいなと思っていますので2人の日常を見守っていただけたら嬉しいです。最後までお読みくださりありがとうございました。 2巻が発売したばかりのこのタイミングに、ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか?
FRaU マンガ部/泥ノ田 犬彦