朴一圭は「最高のGKですね」。サガン鳥栖イタリア人GKダイレクターが「GKは年齢を問わず成長できる」と断言する理由
3年ぶりにサガン鳥栖に帰ってきたバッレージ・ジルベルト氏はGKダイレクターという新たな肩書を背負い、イタリアで築き上げたGK哲学を落とし込んでいく。全3回に渡るインタビューの第1回では、鳥栖での出来事を入口にして、“ジルさん”の指導哲学に触れる。(取材・文:佐藤徳和) 【2024明治安田Jリーグ スケジュール表】TV放送、ネット配信予定・視聴方法・日程・結果 J1/J2/J3 プロフィール:バッレージ・ジルベルト 1963年11月22日生まれ、イタリア・マルケ州出身。長くイタリアのクラブでGKコーチを務め、2017年8月に同胞のマッシモ・フィッカデンティ監督率いるサガン鳥栖のGKコーチに就任し、19年までに権田修一、高丘陽平らを指導。20年にイタリアに戻り、昨年1月にGKダイレクターとして鳥栖に復帰。これまで培ってきたGK哲学をトップチームから育成年代まで広く伝えている。
「クビになるかも(笑)」イタリア国外での指導に戸惑いは? ――サガン鳥栖に来たのは2017シーズンの途中でした。それまではイタリア国内で指導していて、国外での指導はこの時が初めてでしたが、そのときの心境は覚えていますか? 「不安は全くありませんでしたね。日本は文化も違うので、来た当初は学ばなければならないこともありましたが、自分がやらなければならない仕事に関しては自信がありました」 「ただ、『私がやりたいことをすぐに選手たちに浸透させることできるだろうか』という不安はありました。なぜなら、イタリアではすぐに結果を出さないと解雇されてしまいます。日本でも同じことになるかもしれないというプレッシャーがあったのです」 ――実際に日本に来て、そのような不安やプレッシャーはどう変わりましたか? 「日本に来て数週間のことですが、権田修一が試合で足をつってしまいました。トレーニングがキツいのではないかと監督にも言われたので、そのときはクビになるかもしれないと思いました(笑)」 「でも、サガン鳥栖は時間を与えてくれましたね。そして、私が予想していたより、選手たちに浸透させる時間はかからなかったので安心した記憶があります」 ――体格という点で見ると、鳥栖で正GKを務める朴一圭選手は身長が180cmで、GKとしては小柄の部類に入ります。 「パギ(朴)には素晴らしいテクニックがあり、ポジショニングに優れています。今のサッカーはGKも足を使うことが多いですが、そういったプレーで彼はほとんどミスをしません。動きも速く、素晴らしいバネを持っているので、ハイボールやダイビングの際の反応も良いですね」 小柄なGK朴一圭が活躍できる理由「良いGKであれば身長の高さは関係ない」 「また、一般的に腕の長いGKは大きなアドバンテージになります。ハイボールでもグラウンダーのシュートでも手を伸ばして止めることができますから。身長を重視するGKコーチもいますが、私は良いGKであれば身長の高さは関係ないと思っています」 ――彼には特殊なキャリアがあり、JFLやJ3を経験して、29歳で初めてJ1の舞台に立ちました。 「たしかに横浜F・マリノスに加入するまで、J1での経験はありませんでしたね。でも下部リーグで経験を積み重ねていました。そういった下積みは選手を成熟させるのです。失敗から立ち上がり、苦しむことも時には必要です。J1に来たばかりのGKでも優秀なGKはいます。たとえば、高丘陽平は元々J1での経験がありませんでしたが、鳥栖ではレギュラーとして活躍しましたね」 ――ジルさんは権田修一選手も指導していますね。彼らに共通するものはありますか? 「比べるのは好きではありませんが、権田もパギも素晴らしいGKですね。2人に共通するのはもっとうまくなろうという意欲を常に持っていることです。決して現状に満足しない、最高のGKですね」 ――鳥栖には4人のGKがいます。 「レギュラーではない3人もうまくなりたいという意欲を持っています。トレーニングではすべての力を出しています。パギとグッピー(岡本昌弘)はベテランで、グッピーは41歳ですが、若い2人(アルナウとイ・ユンソン)を引っ張ってくれているのもありがたいです」 ――30代でも素晴らしい活躍を見せているGKがJリーグにはいます。 「ある年齢に達すると、反応が遅くなり、フィジカルが衰えてしまうこともあります。でも、正しいポジショニングを取り、どこにボールが飛んでくるかを正確に判断できるようにもなります。20歳にはない経験を持っていますから、年齢を問わず成長できると私は思います」 「年齢を問わず成長できる」「イタリアとは少し違うかも」 ――現在は、GKダイレクターとして、鳥栖のアカデミーからトップチームまで、GK指導を統括する立場にいますが、日本のサッカーにどのような印象を持っていますか? 「選手のトレーニングに対する取り組みや協力的な姿勢が印象に残りました。また、俊敏で動作スピードが速いですね。ただ、創造性、フィジカル、戦術についてはイタリアに劣りますし、テクニカルファールはせずに真面目なサッカーをするところもイタリアとは少し違うかもしれません」 ――GKについてはどうでしょうか? フィールドプレーヤーに比べると、トップレベルで活躍する選手はさほど多くなく、相対的に見るとウィークポイントと見られることもあります。 「ウィークポイントというのはミスが多いという意味でしょうか? 私はGKが日本サッカーのウィークポイントだとは全く思いません。素晴らしいGKもいますし、もちろんそうではないGKもいます」 「ミスという言葉は使いたくありませんが、そういった場面は誰にでも起こり得るものです。GKだけでなくフィールドプレーヤーもミスをしますよね。技術の発達や練習メニューの発展によりフィールドプレーヤーのミスは確かに昔に比べると減っているかもしれません。それと同じようにGKもGKコーチもさらに良くなるはずです」 ――日本人GKを指導していて、どのような特徴を持っていると感じましたか? 「反応の速さが印象的ですね。勘に頼る傾向もありますが、良い反応を見せるGKが多いです。日本に来た2017年に比べると、GKの体格も少し大きくなったように思います。今、J1リーグでプレーしているGKを見ても、体格の良いGKが多いですね。ヨーロッパはアジアに比べて体格の良いGKを必要とします。日本も優れたGKを輩出できると思いますが、まだ成長の余地はありますね」 ※第2回ではバッレージ・ジルベルト氏が重要視するGKの「テクニック」と「ポジショニング」を深堀しつつ、“ジルさん”が長きに渡って指導してきたイタリアサッカーにも触れる。
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