【ハイテク機能を搭載した帰国子女】ホンダCR-V e:FCEV試乗記
今までのクルマから乗り換えても違和感はない
CR-V e:FCEVの実車は以前の事前説明会で見ていたが、公道上で見るのは初めて。日本では2022年で販売を終了した先代とスタイリング的には似ているが、薄型のヘッドランプでワイド感を強調するフロントまわりや、CR-V伝統の縦型リアコンビランプを踏襲しながらクリアレンズやブラックガーニッシュで引き締めたリアビューなど、SUVらしい力強さを増幅させた。 北米仕様のCR-V PHEVをベースに、フロントグリルやフェンダー、エンジンフード、前後バンパーなどが専用デザインに変更され、全長はフロントのオーバーハングが110mm延長されている。したがって先代より全長は200mmほど長くなったが、全幅や全高は変わらない。SUVとはいえ、日本の街中でも使う機会が多いなら、これくらいのサイズまでが扱いやすいだろう。 インテリアがブラック一色なのは少しビジネスライクで味気ないが、合皮ステアリングホイールやバイオ合皮のシートなどサステナブルな素材を採用し、人にも地球にも優しいクルマを主張している。それでもコクピットまわりのデザインやインターフェイスは最新のホンダ車と共通している部分が多いので、視認性も良く、また操作性も違和感はない。 つまり、普通のエンジン車やハイブリッド車から乗り換えても「これを作動(もしくは調整)するには、どのスイッチをどう操作したら良いのか?」と悩むことはほとんどないだろう。この手の『新世代』的なクルマは、それだけで拒否反応を起こす人もいるから、これは重要なポイントだ。 では、シートベルトを締めて、システムを立ち上げ、スイッチ式ATセレクターをDに入れて走り出そう。
走りの質も乗り味も高レベル。使い勝手も悪くない
走り出してしまうと、その印象は今までのEVと大きくは変わらない。アクセルペダルを緩やかに踏み込んでいくと、静かにシームレスに加速していく。さすがに車両重量が2トンを超えるので、発進時にアクセルペダルをベタ踏みしてもハイパワーEVのようなロケット加速はしないが、それでも十分以上の加速を見せる。 その重めの車両重量や低い重心高も奏功してか、乗り味はしっかりしていて安定した走りっぷりを示す。市街地でも高速道路でも、走行中はタイヤが発するロードノイズ以外はほとんど聞こえず、室内はきわめて静かだ。 ハンドリングを試すようなシチュエーションはなかったが、それでもボディ剛性の高さや、少し荒れた路面では追従性の良さを感じさせてくれた。ベースとなっているCR-Vの出来の良さを、このe:FCEVだけでなくPHEVやエンジン車でも試してみたくなるほどだ。 走行状況に応じて、オート/セーブ(バッテリー残量を維持)/チャージ(FCからバッテリーを充電)/EV(バッテリー電力を優先)とドライブモードを切り換えられるが、試乗時はバッテリー残量がほとんどなく、切り換えても走りの印象は大きくは変わらなかった。 停車中に、FCスタックが作動している「シューン」といった音を発することがあるが、これも車外では聞こえるが車内ではほとんど気にならない。 室内の広さはPHEVのCR-Vと変わらないが、水素タンクを搭載するためラゲッジスペースは狭くなってしまった。それでもフレキシブルボードを活用すれば、ゴルフバッグは3個(少し無理すれば4個も)積載可能だし、RVとしての使い勝手はかなり確保されている。 FCを生活にも活用するクルマとしては、このCR-Vのようなパッケージングが、今はベストとはいわないがベターなのかもしれない。FCのレアメタル回収など、リサイクルまで考えて当面はリース販売のみとのことだが、官公庁や法人だけでなく、個人向けのリースにも対応している。 水素の可能性の高さを再確認させてくれた、CR-V e:FCEV。この先はホンダだけでなく、トヨタなど他社との連携やインフラ充実などがFCEV普及のカギだろう。その魅力をより多くの人に届けられるよう、今後の開発・研究に期待したい。
ホンダ CR-V e:FCEV 主要諸元
●全長×全幅×全高:4805×1865×1690mm ●ホイールベース:2700mm ●車両重量:2010kg ●モーター:交流同期電動機 ●FCスタック最高出力:92.2kW(125ps) ●モーター最高出力:130kW(177ps) ●モーター最大トルク:310Nm(31.6kgm) ●燃料・タンク容量:圧縮水素・53L+56L ●バッテリー総電力量:17.7kWh ●一充填走行距離:約621km ●一充電走行距離:約61km ●駆動方式:FWD ●タイヤサイズ:235/60R18 ●車両価格(税込):809万4900円(リース専用)
篠原政明(執筆) 田中秀宣(撮影)