「褒めて伸ばす」はもう古い。優秀なリーダーの接し方とは?
● 注意するときは“相手の事情”を考える ―― 一方で、“褒める”の反対といえば“叱る”、“注意する”です。部下が明らかに間違っている、ズレたことを言っている、といったときに正さないといけないことはあると思います。しかしそうすると、「否定された!」と心を閉ざす部下もいるようで、リーダーたちはどうしていいか分からず戸惑っている、という話をよく耳にします。上手な注意の仕方というのはあるのでしょうか? 木暮:修正は必要だと思います。修正をするのが指揮官の役割であって、成果が出ないのであれば、それは伝えなければいけないことです。でも、たしかにある意味否定することになってしまうので、メンタルが下がってしまう人はいるでしょう。ではなぜメンタルが下がってしまうかというと、それは部下の事情を全く考えないからだと思います。 もし部下自身が、自分がやっていることがどうも違うと感じていたなら、リーダーに「それ、違うから」と言われたとき、ある程度すんなり「そうですよね」と受け入れられると思います。でも、部下が「こうでしょ!」と自信満々でやっていることに対して「そうじゃないから」と伝えてしまうと、部下は「何なんだよ、こっちの気も知らないで」という感じになってしまうんです。 つまり、何か指導をしたときに部下がふてくされるのは、自分の行為を修正されたからではなくて、自分の背景をリーダーが理解しないからだと思います。 ――それが“相手の事情”というものですね。 木暮:相手も良かれと思ってやっているんですよ。それを否定されるとムカついてしまうのが人の心理。だから“相手がどう良かれと思ってやっているのか”といったところを、リーダーは聞かなければいけないんです。 ● リーダーの「べき」と、部下の「だって」 ――“相手の事情”の聞き方のコツも、ぜひ教えてください。 木暮:コツは、相手の「だって」を聞くことです。 この説明をするとき、僕は「べき」と「だって」という言い方をよく使っているんですね。多くのリーダーは、部下やメンバーに対して、それぞれの「こうするべき」を持っていると思います。その「べき」と違うことをやるから「修正しなければいけない」と思うわけです。 だけど「べき」を向けられた相手は、「そうするべき」だとは思っていない。むしろ、「だって」と思っているんです。 たとえば、僕が以前勤めていた会社に、すごく成績のいい営業マンがいました。だけどその人は、いつも全体会議に遅刻してくるんですよ。で、みんなは「時間通りに来るべきだ」と思っている。でも本人は、「俺は成績を上げているんだからいいじゃないか」「成績上げるのと朝礼に参加するのとどっちが大事なんだよ」などと思っている。 つまり「べき」を向けられて、「だって」と思っているわけですよね。そこを聞いてあげなければ、彼は感情的に納得しないんです。 ――「だって」を聞いてあげてから、「べき」を伝えるのが良いと? 木暮:いえ、「べき」を伝える必要はあまりないと思います。それよりもまずは相手がどういう「だって」を持っているか聞いてあげみてください。単純にそれさえ行えば、相手は話しているうちに「まあ、やっぱり遅刻はマズイですよね」みたいに自己完結していくことが多いですから。 ――自然と相手の「べき」認識するようになるということですね。 ● 言葉を引き出すと相手は感情的に納得する 木暮:最終的には、「一般的には遅刻しないほうがいいって思われているじゃん?」などと、「べき」論みたいなものを言ってもいいと思います。 でもその前に、「『俺、成績出しているし』ってぶっちゃけ思っているでしょう?」「思っています」みたいな話に持っていって、相手が「だって」と思っていることをたくさん引き出してあげる。そして同調してあげることが大事です。「そうだよね、あなたは誰よりも仕事しているもんね」などと。 その後で初めて、「でも他のメンバーの手前、トップ営業マンが遅刻してくるというのはあんまり良くないじゃん?」などとこちらが伝えたい「べき」を言えば、「まあ、そうですよね。それは分かりますけど」みたいな感じで納得してもらいやすい。相手も当然、多少の罪悪感はあるので、感情的に納得がいけば「べき」も受け入れられるんですよ。 ――人は言語を引き出してもらえると、感情的になりにくくなるということですね。 木暮:やはりメンタルが凹んだり反発したりするのは、「こちらの事情も知らないくせに」という思いもあるからで。だったら「こちらの事情」を知ってあげればいいだけだと思うんですよね。 ――以前に「ハラスメントは言語化できていないから起こる」というお話を伺いましたが、あらためて、言語化は感情コントロールにおいて非常に重要なスキルだと感じました。
木暮 太一