「運だけ」の野次も…変貌遂げるサッカー伝統校 「たぶん全国で一番」の自負と得難い人生経験【コラム】
人としての成長と達成感、同時に結果も追求できる贅沢は組織に
昨年ベスト4に進出したことで、膨れ上がる期待や高評価と同時に、野次や批判も入り乱れ雑音が急増した。 「運だけで勝ち上がった」 「格上には勝てない」 竹内利樹人主将は「それを見返したくて自分たちでゼロから積み上げてきた」と言う。 「だから自分がやってきたキャプテンとしての言動には胸を張れるし、理想像の90%は達成できたと思う。残り10%は結果ですが、ボトムアップのキャプテンとして、たぶん全国で一番自分が(多様なことを)やってきたと自負しています」 堀越高校サッカー部は、人としての成長と達成感を促し、しかし同時に結果も追求できる贅沢な組織に変貌を遂げてきた。最初はボトムアップ方式に面食らう選手も多く試行錯誤が続いたが、今では選手たちもそれを当然のことと受け止めて入学してくる。 「自分たちで作り上げていくのは、すごく楽しいと思いますよ。責任を持つことで、話し合いのクオリティーも確実に高まり、詰めるべきところはしっかりと詰めている。こうして出来上がった好きなサッカーを、みなさんの前で表現できる。人生の中で、なかなか得難い経験だと思いますよ」(佐藤監督) 当初は奇異にも見られがちだった尖ったスタイルで、堀越はここまで上り詰めてきた。 「まだまだ足りないことはたくさんある。でも夏以降の成長スピードの加速は間違いないし、この喪失感(準々決勝敗戦)もここまで来たからこそ味わえる。今度はプレミアやプリンスで戦う格上相手にも力で対抗できるように、足りない部分は今回プレーした選手たちがしっかりと伝えてくれるはずです」 多くの選手たちが文字どおり満喫した濃密な部活。佐藤監督は「いつかこのスタイルで日本一を」という大望に、また一歩近づいたはずだ。 [著者プロフィール] 加部 究(かべ・きわむ)/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。
加部 究 / Kiwamu Kabe