U―23日本代表・山田楓喜「日本の中でも数少ない自分の左足なんで」 パリ五輪で別格の左足を見せる
パリ五輪に向けた連載「Messages for Paris」の第12回は、サッカー男子U―23日本代表候補のMF山田楓喜(22)=東京V=。「左足」という唯一無二の武器で、パリ五輪出場権を獲得したU―23アジア杯では決勝戦を含む2得点で優勝に貢献した若武者の「レフティー論」に迫る。(取材・構成=後藤亮太) 特別な武器は、選手を唯一無二の存在として際立たせる。山田楓喜にとって、それは「左足」だった。「自分の左足は、たぶん他に持っている人はあまりいないと思う。左利きの中でもまた違った左利き。言葉では説明できないですけど、見たらわかるでしょ? みたいな感じです」。自然体な表情とは対照的に、「左足」について聞かれた時の答えはいつも自信にみなぎっている。 インプレー中は、助走が短く、時にワンステップでも、鋭く、強いボールを蹴ることができることが特長で、小柄な選手が多いサイドアタッカーの中では181センチの高身長ということもあり、カットインから一振りで強烈なシュートを放つことが出来る。 さらにセットプレーになると、その左足のすごさは説明不要となる。今季から加入した東京Vでは国立競技場に5万3026人が詰めかけた開幕・横浜FM戦(1●2)で直接FKをたたき込んだ。ゴール右、約20メートルの距離から、左足を振り抜き、ボールは3枚の壁を越えてネットに吸い込まれた。さらに第4節の新潟戦(2△2)でも直接FKを沈め、パリ五輪出場権を獲得したU―23アジア杯でも、決勝戦のウズベキスタン戦での決勝点を含めて、左足で2ゴールを決めてみせた。「左利きは魅力ありますよね。特別感があるし注目もされる」。その「魔法の左足」を、誰もが知るところとなった。 幼少期にサッカーを始めた時から「自然と」左足でボールを蹴るようになり、「右足の練習はしたことないです。すんげえ、へたくそやった」。家の近所の空き地で日が暮れるまで左足でボールを蹴り続け、プロ入り後も居残りでシュート練習を続け、感覚を研ぎ澄まし続ける。その日々を繰り返し、アイデンティティーは確立した。 現代サッカーでは、運動量、フィジカル、球際の強さなどが必要不可欠な要素となっている。さらに山田が本職とするサイドアタッカーには、ドリブルやスピードにたけた選手が起用されることが多い。その点について、山田は「自分はインプレー中に1人で何かできるわけでもないですし、ドリブルして1人で何人も剥がしてとかできるタイプじゃないサイドアタッカーなんで」と冷静に分析する。 もちろん山田も「攻守にわたって走る、戦うっていうのはベースとして持っていかないといけない」と口にするが、平均値の高い選手が多くなればなるほど、一芸にたけた選手の価値もまた高まる。「それ(走る、戦う)だけだと他の人との差っていうのはつけられないと思う。止まってるボールとか、誰にも邪魔されない状況では自分一人の空間。そういうところは自信を持って蹴れるし、他の人にないものを持ってるんで。そういうところで違いをつけていかないと、自分は生き残っていけない」。特別な武器が、山田にとっての生きる道となっている。 だからこそ、左利きのサッカー少年少女に助言を求められても伝えることは同じ。「自分の武器を磨けって言いますね。左だけ、それでいいと思うんですよ。右足を蹴れたら蹴れたでいいと思うんですけど、それはもう自分の価値観ですかね。その人が左足をどう思ってるかによって多分変わっていくと思う。それはもうその人次第」と口にした。 U―23代表でもオンリーワンの存在として、地位を確立した。そんな山田が描く未来もまた、特別な左足とともにあるのは当たり前だろう。「日本より世界で自分やった方が今よりもっと輝けるんじゃないかなと思っている。海外って全員のスタンダードが高くて、この人だけを注意するってないじゃないですか。なんで、もっとどんどん自分の左足を思う存分に出せる場所が海外にはあるのかなと。そういうレベルでやりたいですし、そういうところで自分が輝けるのは想像している。自信しかないんで、早く行きたいなと思ったりします」。心を高ぶらせる舞台を主戦場とするために、まずは今夏、夢の祭典が待っている。 「左足でもっと違いを作れるようになって、やっぱりこいつが左で蹴ったら何か起こるなっていう選手になりたい。(五輪に)出ることになれば、自分が輝けるイメージはできているし、日本の中でも数少ない自分の左足なんで。チームの武器として、優勝狙えるんじゃないかなって思います」 パリ五輪でその左足を世界に証明する。
報知新聞社