「東洋のスイス」の老舗メーカーが生んだ新ベンチャー/金属分析から高級トマト栽培まで~小松精機工作所 前編
◆本社はディフェンス、子会社は「外で暴れる」
諏訪では伝統と実績のある小松精機。その1部署として、磁界式センサーの事業展開をスタートすることもできた。 しかし、2人は新たな子会社立ち上げの道を選んだ。 小松精機の企業文化は「部品加工」。新商品をマネタイズする『装置販売』のノウハウはなかったのが理由の一つだ。 もう一つは、フットワーク。 企業の規模が大きいと、契約や決済など全てに時間がかかる。 一方、子会社なら小松さん自身の判断で、意思決定と実行が可能だ。東京から遠い地方都市で、新しい繋がりを素早く作るためにも重要なメリットだった。 小松さんは「今あるところ(※小松精機)はディフェンスでそのまま置き、オフェンスは外で暴れてくるという手を考えた」と話し、「めちゃめちゃいろんな責任負わなきゃいけないデメリットはありますけどね」と笑う。 2020年6月、東京がゴーストタウンのようになっていたコロナ禍の真っ最中、2人は「ヘンリーモニター」を立ち上げた。 「今がどん底で、3年も経てば社会は回復する。準備も含めこのタイミングしかなかった」。 コロナ禍中に創業したヘンリーモニターには、物理的なオフィスがない。 ほぼ全部リモートワークで構成し、正社員や契約社員ら9人で構成する。 相手の事情に合わせながら雇用関係を結ぶスタイルをとることにした。
◆事業スピードに大きなメリット
小松さんとタッグを組む、コンサルが本業の黒田さんは、ヘンリーモニター起業の経緯をどう見ているのか。 黒田さんは、ヘンリーモニターのビジネスモデルについて 「イチから製品を開発し、ニーズを見極めながら販路を拡大する。いわゆる一般的なスタートアップ。一方で、大きな企業の社内ベンチャーとしての性格もある」とする。 そして、こうしたモデルの重要なポイントを3点挙げた。 まずは「事業スピード」だ。先述の通り、大企業の1セクションでは、意思決定等が遅くなりがちだが、子会社化することで迅速な経営が可能だ。 ヘンリーモニターは、親会社の小松精機から数千万円の資本金を出してもらっているが、小松精機に議決権はない。