各国の思惑が交錯、AI規制はどうなる?欧米の有識者に最新動向を聞いた 安全管理をテーマに初めて開かれた国際会議
「GDPRは採択時点で『ブリュッセル効果』を狙った訳ではなく、たまたま起きた副次的な効果だったとみている。しかし、EUは今、そうした考えを明確に受け入れるようになり、AIの分野でもブリュッセル効果を得たいと望んでいる。他の地域もEU型の規制の枠組みになれば、EUに拠点を置く企業の競争力強化に役立つからだ」 ▽初の国際会議の成果は? イギリスは「AIの父」と称される数学者アラン・チューリングを輩出するなどAIの歴史は深い。イギリス政府は11月、第2次大戦中にナチス・ドイツの暗号解読の拠点だったブレッチリー・パークで、AIの危機管理を主眼に置いた世界初の国際会議「AI安全サミット」を開いた。関連討論会に参加したイギリス学士院のチーフ・エグゼクティブ、ヒタン・シャー氏は、AI活用の在り方が岐路に立っているとの認識を示した。 「米国、EU、中国が一堂に会して発言したことは非常に重要で象徴的だった。AI開発と規制は米欧中が大きな役割を担っており、(反対論がある中でも)中国を招待したことは正しい判断だった。意見の一致のポイントを理解する出発点となった」
「私は討論会で『規制を厳しくしてもらいたくない』という企業と『もっと規制されるべきだ』という市民団体が対立すると予想していたが、実際にはそうはならなかった。企業は自ら規制を受けたいと言い、規制が導入されるまでの当面の対策を紹介していた」 「国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のような機関の設立を求める声もがあるが、人によってその機関に何を求めるかのイメージが異なる。大事なのは科学的であることだ。一方で、国際的な規制機関の設立は実現しないだろう。各国が異なるアプローチを取りたいと考える場合、どうして規制する権利を他に委ねることになるだろうか」 ▽AIは仕事を奪うのか? 米国の起業家イーロン・マスク氏はスナク・イギリス首相との対談で「全ての仕事をAIが代わりにやる時がくる。人間にとって仕事は、やりたければやるというものになる」と述べ話題を呼んだ。シャー氏は、こうした指摘に疑問を呈する。 「私はマスク氏の発言には懐疑的だ。現時点ではAIは仕事を奪うのではなく、増やすのに役立っている。しかし、こうした予測より、AI活用の在り方が分岐点にあると考える議論の方が有意義だろう。AIが仕事の手助けをしてくれ、恩恵が広く行き渡る世界に向かうのか、それとも例えば職場で人間を監視するために使われ、少数の人が利益を享受する世界に向かうかだ」