各国の思惑が交錯、AI規制はどうなる?欧米の有識者に最新動向を聞いた 安全管理をテーマに初めて開かれた国際会議
生成AI(人工知能)の「チャットGPT」が昨年11月末に公開されてから1年がたった。誰もが手軽に高度なAIにアクセスできるようになった一方で、偽情報の拡散やプライバシーの侵害といった悪用を懸念する声が強まっている。 チャットGPTがたった30秒で作った「憲法改正案」、その中身とは?
AIがもたらす恩恵は世界に広く行き渡るのか、それとも少数の人のみが享受するのか。AIの規制と活用の在り方は分岐点にある。11月初めにイギリス政府が開いた国際会議「AI安全サミット」には日米欧に加えて中国政府の関係者も参加した。欧米の有識者に国際的な規制の方向性を聞いた。(共同通信ロンドン支局 宮毛篤史) ▽AI規制の国際的な構図は? 米コロンビア大のアニュ・ブラッドフォード教授は、国境を超えた影響力を持つAIには、国際的な枠組みの構築が求められると指摘する。一方で、各国の文化的、制度的な違いを踏まえると、世界的に統一された規制の実現は困難との考えを示す。 「日本が議長国を務める先進7カ国(G7)で良い対話が行われたことには勇気づけられた。AIを監視、検閲、プロパガンダに利用している中国と比べると、(G7のような)『志を同じくする国』の間では大きな違いはない。しかし、EUと米国ではスタンスが異なる。EUは人権が中核だ。デジタルトランスフォーメーション(DX)は人間中心の考えを前提にしている。社会構造が民主的であることに加え、個人の権利保護、デジタル経済がもたらす利益の公平な再分配を重視している」
「米国が基本的権利として言論の自由に焦点を当てているのに対し、欧州はプライバシーを基本的権利と考える。欧州の市民はヘイトスピーチに強い不快感を抱くが、米国人はより寛容だ。権利の概念の違いだけでなく経済的、社会的な権利の種類も異なる。日本はAIに関してEUと多くの価値観を共有している。しかし、EUのように厳しい制裁のある規制を導入するのではなく、米国に近い形で民間部門との連携を重視している」 ▽AI規制でも「ブリュッセル効果」を狙うEU EUがデジタルや環境といった分野の新ルールを作り、世界に波及させる現象は「ブリュッセル効果」と呼ばれるようになった。ベルギーのブリュッセルに本部を置くことになぞらえたもので、ブラッドフォード教授がこの言葉を広めた。2018年導入の個人情報保護を厳格化したルール「一般データ保護規則(GDPR)」は、日本の個人情報保護法にも影響を与えた。EUは年内にAI規制法案をまとめる予定だ。