オーナーの現場介入の是非
楽天の田代富雄打撃コーチ(61)のシーズン途中の辞任劇が波紋を広げている。一部の報道では、三木谷浩史球団オーナー(50)の現場介入が辞任に至った原因とされている。真偽のほどは定かではないが、三木谷オーナーの過度な現場介入にはついては、これまでもチラホラと耳に入っていた。好意的に捉えれば、それは現場介入ではなく「おれはこう思う」の個人的見解だったのかもしれないし、熱意の裏返しかもしれない。だが一方で、チームを玩具にしているとも、フロント、監督、コーチの仕事への冒涜とも捉えられる。 元ヤクルトの名スカウトで球界の端から端まで知っていた片岡宏雄さんに昔話を教えてもらうと「永田ラッパが西本さんの作戦に文句をつけて、西本さんが怒って辞めた事件と一緒やな。それ以来、あまり、現場への采配に対する介入は聞かないが、時代の先端をいくはずのIT企業の社長が、40年も前の悪しき事件をまたしているの?まったく組織というものが崩壊しているよ」と、嘆いていた。 1960年に大毎オリオンズの監督に40歳で就任した故・西本幸雄さんは、その初年度にリーグ優勝を果たして日本シリーズに進出した。相手は、名将、三原脩監督の大洋ホエールズ(横浜DeNA)。 初戦を落とした西本さんは、その第2戦、2-3で迎えた8回一死満塁で、スクイズを仕掛けたが失敗。連敗となった。その試合後、大毎の永田雅一オーナーが西本さんに電話をかけて、スクイズの作戦を批判したという。これに西本さんも反発。その際、永田オーナーが「バカヤロー」と怒鳴ったとされている。結局、その日本シリーズで4連敗を喫して、西本さんは大毎を去った。解任とも辞任とも言われているが、その後、西本さんは、阪急、近鉄で名将として黄金期を作った。 ガバナンスという言葉のなかった55年も前の亡霊のような昔話が、最先端企業であるはずの、楽天に本当に起きているとすれば、それこそ驚きの事件である。 三木谷オーナーに関しては、筆者はこんな言動を直接聞いたことがある。楽天が球界に新規参入した際、仙台に本拠地を構え、現在のkoboスタジアム宮城を楽天が改修して県に寄付する形をとったが、三木谷オーナーは、「お金をドブに捨てるようなもの」と、ハッキリと口に出したのだ。思わず本音が出たのだろうが、彼は、文化として地域に愛される公共財としての野球チームの価値を理解していないのだと思った。その後、三木谷オーナーがどう変節したかを知る余地はないのだが、今回の報道を目にして、そこからつながっていくものを感じた。