オーナーの現場介入の是非
グラウンドレベルでの選手起用や采配、作戦面への現場介入は、現在の野球界においては、極めて異例だが、最高トップの現場介入をコーチ人事や編成などにまで広げて見てみると、なにも楽天に限った話ではない。オリックスの宮内オーナーも、コーチ人事や、補強などへの過度な現場介入があって現場の人間が嘆いていた。監督が、何も知らない間にコーチが一軍から配置転換されていたということまであった。ナベツネこと、巨人の渡辺オーナーが、数々の現場介入をしてきたことも有名な話。 阪神の坂井オーナーも、自らの情報網と、知見を元にドラフトや補強、編成に対しても強い要望を出す。久保がFAで横浜DeNAに移籍した2013年のオフ、阪神は、その人的補償でベテランの鶴岡捕手を獲得したが、これもオーナーの強い要望の結果だった。フロントサイドは、当初、若手投手をリストアップしていたが、横浜DeNAを弱体化させるという考え方のオーナー指令を受け入れて、鶴岡を指名した。 なぜ、こういう事態が起きるのか。その原因のひとつは、組織のガバナンスの無さだろう。球団社長、GMというフロントの人たちが本来やるべき仕事にオーナーが口を出すのは、メジャーと違って、球団フロントの権限、責任が確立されていないという現状に尽きる。オーナーが介入してくるチームは、その声にフロントサイドや現場が反論できないという未熟な組織なのだ。またフロントサイドにも、オーナーが口を出せないほどの実行力と管理能力を兼ね備えた人材不在という事情もある。 「金は出すが口は出さない」 それがオーナーの理想形とされているが、GM制度が確立されているメジャーリーグでも、オーナーの現場介入は、起きている。イチローの所属しているマーリンズは、シーズン途中にレドモンド監督を解任、監督経験のないGMを監督就任させたが、その人事を断行したのが、過去に9人の監督の首をすげ替えたことで知られる名物オーナーのジェフリー・ローリア氏。エクスポスのオーナー時代から大量の選手整理や監督交代を繰り返してきた現場介入の大好きなオーナーでクラブハウスでのミーティングまでに出席しているという。 ジェフリー氏は極端な例だが、補強への投資金額が何十億となるメジャーでは、GMに対して積極的に口を出すオーナーは少なくない。近年は、投資目的での投資グループが経営権を握っているケースが増え ジェフリー氏やかつてのヤンキースのスタインブレイナーのようなワンマンオーナーは減ったが、球団経営が投資目的ゆえ、なおさら現場介入の機会も増えている。 野球を国民的文化としてリスペクトしていて、GM制度の確立しているメジャーでさえそうなのだから、まだアメリカに比べて歴史も浅く、数えるほどの球団しかフロント組織を整備できていない日本球界において、オーナーの口出し事件が起きてしまうのは仕方がないのかもしれない。 だが、こういう問題が噴出する度に思うのだ。野球チームは、一体、誰のものなのか、と。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)