Apple Vision Proが「空間にオブジェクトを置ける技術」の意味を改めて考える(西田宗千佳)
今回も少しApple Vision Proの話をする。といっても、Vision Proの話だけをするわけではない。Vision Proで改めて注目された「空間に配置する」という概念について、少し深く考えてみよう。 Apple Vision Pro実機(写真) この概念、文章ではよく出てくるが、実際に体験したことがある人はまだ少ない。 というわけで、過去の機器で「空間に配置する」という要素がどう扱われ、Vision Proでどうなっていて、さらにMeta Quest 3が今後どうなる予定なのかについて整理しておきたい。
Vision Proは「空間を把握している」
Vision Proが「空間コンピューティング・デバイス」と言われる理由は、いわゆる「Mixed Reality(MR)」の仕組みを使い、自分が見ている空間の中にオブジェクトを配置できることにある。 記事や広告でよく見るのはこのような画面だろう。内蔵のカメラから得られた外の映像にアイコンが重なっている。 これは、カメラ+距離センサーによって立体構造が把握されており、「その中のどの深度に重ねればいいのか」ということをOS側が把握して処理しているからできることだ。
こちらの画面は、Vision ProでYouTubeの動画を「テレビの中」で見られる「Television」というアプリのもの。昔懐かしい大型のブラウン管テレビを置いてみた。ちゃんと机の上に置かれていて、よく見るとブラウン管の曲率に合わせて反射もある。 ウィンドウを空間に浮かべておけるのも、すきな場所に配置できるのも同じ理屈に基づく。 これはどういうことなのか?
こちらの画像は、Vision Pro専用アプリ「A Magic Room」を使い、visionOSが把握している「周囲の立体構造」を可視化したものだ。この作業をリアルタイムで行なっているので、「机の上にものを置く」ということも可能になっているわけだ。 この周囲の構造を把握する機能は、家の中を移動しても有効となる。例えば、Vision Proをつけたまま隣の部屋へ移動したとしよう。アプリのウィンドウやオブジェクトは「配置した場所」に置かれたままとなる。現実の世界では、自分に椅子や机はついてきたりはしないわけだが、それと同じと考えていい。部屋に戻ってくれば、元の位置にウィンドウが見えてくる。 ただ「Television」の例でわかるように、奥行きや細かい物体との衝突判定はないので、机の上にあるものにめり込んで見える。 それでも手だけは特別な扱いがなされており、常に現実と同じ位置に、自然な距離感で表示される。他のオブジェクトの前に手を持ってくると「手がオブジェクトの前にある」ように再現されるわけだ。 これは現実感を高めるための工夫であり、非常に効果的に作用している。だが逆に言えば、現実世界の物体とvisionOSの中にだけある存在、すべてについて正確な立体構造の把握と位置矛盾のシミュレーションを排除し、処理の簡便化を図っている……ということもできる。