「玉三郎のおじさまの言葉で印象深かったのは…」“令和の光源氏”市川染五郎の“人生最大の緊張”
震えが止まらなかった12歳の義経
歴史上に実在した人物がどうであったかはともかく、歌舞伎の中で確立した貴公子の役に源義経があります。兄・頼朝に追われ落ち延びていく義経一行の安宅の関での危機と弁慶の活躍を描いた『勧進帳』は人気演目で、染五郎さんが『勧進帳』の義経を歌舞伎座で初めて勤めたのは12歳の時。2018年の「高麗屋三代襲名披露」でのことでした。 「当時の年齢で勤めさせていただくような役ではありませんからプレッシャーはものすごく、人生最大の緊張を味わいました。初日に花道から出る直前は震えが止まらず、今思い出すだけでもゾクゾクします」 変声期にさしかかっていたため発声がままならず技術的にも苦しみながらの日々でしたが、清楚な気品で鮮烈な印象を残したのでした。その義経を6年ぶりに勤めたのは先月の「秀山祭九月大歌舞伎」。初演時の歌舞伎座と同年に行われた南座での襲名披露に続く3度目の義経で、その過程では義経を警護する四天王のひとり片岡八郎も経験し、「守る側と守られる側の違い」も実感しました。 「同じ歌舞伎座という場所で12歳のあの時と同じ景色を見ていると思うと感慨深く、義経に挑戦できたことはとてもありがたく嬉しかったです。その間にいろいろな役を経験させていただき、声の音域も少しずつ広がって来ました。また今回は能の『安宅』がもととなっている作品であることも意識しました。その上で歌舞伎として勤めるにあたって柔らかさの中にも一行を引き連れたリーダーとしての強さが出せるように心がけました」 歌舞伎にとっても高麗屋にとっても『勧進帳』は大切な演目。そして代々が当り役にして来た弁慶は染五郎さんが何より憧れている役です。その夢がいつかかなう日に向かって、一つひとつの経験を糧に『勧進帳』という作品そのものへの理解を深めつつあるようです。 そして染五郎さんにはもうひとつ大きな夢、憧れの役がありました。過去形で記したのは今年2月、博多座でついにそれが実現したからです。