<わたしたちと音楽 Vol.44>松尾潔が語る、わかりやすさが好まれる日本のエンタメ業界の課題
【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック】(WIM)の日本版実施に伴い展開されている、独自の観点から“音楽業界における女性”にフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』。Vol.44となる今回は、国内のR&Bやソウル・ミュージックのムーブメントを牽引する存在として、これまでに多くのヒットソングを手がけてきた松尾潔が登場した。 作品に携わってきたSPEED、MISIA、宇多田ヒカルが、それまで主流だったアイドルとは異なる自立した自分像を歌っていたという指摘に対し、「やはり当時のアイドルは、メガヒットを狙っているマスプロダクツでしたから、世間の最大公約数的な好みが反映されることになります。だから当時の日本の性別役割分担意識が色濃く表れていたとも考えられます」と説明。「一方で僕がチームの一員としてお手伝いしたR&Bの女性シンガーたちに共通点があるとすれば、“自分の足で歩いている感じ”とでも言いましょうか」と述べると、「“人に歌わされている”という感覚が希薄だったからこそ、自立した女性像を感じさせたのかもしれませんね」と続けた。 さらに、日本のエンタテインメント業界で成熟した女性アーティストが受け入れられづらい理由については、「思春期に、日本のアイドルを見て育って“女の子ってこういうものだ”と教育されてきた人たちが、それらを卒業した後に成熟した女性のアーティストを聴くようになるかというと、そうではないのかもしれませんね。今は成熟した世界観よりも、わかりやすさが重視されているのを感じます」と語った。 短い歌詞でも心情が深く描かれている永六輔や山上路夫の歌詞が好きだと続けると、「僕もそういうアプローチをやってみたいと思うこともあるけれど、なかなか期待するようなリアクションが得られないのは、新曲に奥深さや繊細なグラデーションの世界観が求められていないのかもしれないと思います」と見解を述べた。 インタビュー全文は特集ページにて公開中だ。また、【ビルボード・ジャパン・ウィメン・イン・ミュージック】の特設サイトでは、これまでのインタビューやプレイリストなどをまとめて見ることができる。 2007年からアメリカで開催されている【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック】は、音楽業界に貢献した女性を表彰するアワードで、2023年版は3月に実施された。日本では、インタビューやライブ、トークイベントといった複数のコンテンツから成るプロジェクトとして2022年秋にローンチした。 Photo: Shinpei Suzuki