【解説】アメリカ利下げシナリオに狂いも…円安圧力に直面する日銀 “トランプリスク”で対米輸出企業に逆風か
アメリカのFRBは0.25%の利下げを決めたが、トランプ氏の勝利は、今後の段階的利下げシナリオを狂わせかねない。日銀は円安圧力に再び直面する可能性がある。日本企業の間では「トランプ関税」に警戒感が強まっている。 【画像】11月11日午前10時すぎの円相場はこちら
インフレ再燃という“トランプリスク”
アメリカのFRB=連邦準備制度理事会は、0.25%の追加利下げを決め、政策金利の誘導目標は4.5~4.75%となった。利下げは2会合連続だ。 2日間にわたる会合で、初日の議論が始まったのは、6日未明にアメリカのメディアがトランプ氏の勝利を伝えてから5時間ほど後のことだった。トランプ氏の掲げる高関税や減税などの政策が、物価の上振れや企業活動の後押しにつながるとの見方から、金利や株価が急速に上昇するなかで、意見が交わされる形となった。 インフレの鎮静化を踏まえ、雇用悪化を未然に防ぐため、段階的な利下げを模索するFRBにとって、トランプ氏の再選はシナリオを狂わせかねない材料だ。 トランプ氏は、すべての国に10~20%、中国に対し60%という関税をかけ、前政権時代に導入した個人所得税などの「トランプ減税」を恒久化する考えを打ち出すとともに、不法移民を大量に強制送還する意向も示している。 関税引き上げ分が小売価格に転嫁されれば、輸入品を中心にモノの値段が跳ね上がる一方、減税により消費や投資活動が刺激されれば、景気の過熱がもたらされ、インフレの再燃を招く可能性がある。移民取り締まり強化も、人出不足を通じてインフレ要因となる。
パウエル氏、辞任は「NO」
会合後の会見で、パウエル議長は、政策金利が依然として引き締め的な水準にあると認め、利下げの継続を示唆した。ただ、今後のペースについては言及せず、経済指標を見極めながら「会合ごとに決定を行う」姿勢を示すにとどめた。 パウエル氏は、トランプ前政権時代の2018年に議長に指名されたが、利上げ継続をめぐって、トランプ氏から解任を示唆されるなど、意見の相違が表面化した経緯がある。 会見での関心は、トランプ氏返り咲きが金融政策に与える影響に集まった。 パウエル氏は「選挙が近い将来に政策決定に影響を与えることはない」と説明した一方で、「政権や議会が決めた政策が経済に影響を及ぼし、長期的にわれわれの目標達成にとって重要になる」との認識を示し、トランプ氏の経済政策について「(現時点で)経済への影響は予測できない。我々は推測も憶測も仮定もしない」と述べた。 丁寧に質問に答える姿勢が目立つパウエル氏だが、「トランプ氏から求められたら辞任するのか」との問いに対しては「NO」ときっぱりと一言だけ回答し、大統領による解任や降格については「法律上、認められていない」とする認識を示した。 会見の終盤には、財政赤字について、持続不可能な水準だとして、「究極的には経済に対する脅威だ」と批判し、政府債務の膨張にくぎを刺す場面もあり、大幅な財政悪化をもたらすとの見方があるトランプ氏の政策に、暗に苦言を呈した格好となった。