【解説】アメリカ利下げシナリオに狂いも…円安圧力に直面する日銀 “トランプリスク”で対米輸出企業に逆風か
日銀12月利上げ観測も
FRBの利下げ決定後、外国為替市場の円相場は、日米の金利差縮小が意識され、円がドルに対して強含みでの推移が続いていたが、週明け11日午前の東京市場は1ドル=153円前半で取引されている。アメリカ金利の高止まりを見通して、円安傾向は変わっていないとする市場参加者が目立つ。 トランプ氏の掲げる政策は「インフレ的」だとして、投機筋による円売りが再び本格化すれば、円相場の下落が長期化する可能性があり、日本国内への輸入物価を高止まりさせるおそれがある。日銀は、円相場の動向を注視しつつ、今後の利上げの時期を見極める。 植田総裁は、10月の会合後の会見で、追加利上げをめぐり「時間的余裕がある」との表現を用いなかったが、円安が加速すれば、輸入価格の上昇を通じて物価の上振れリスクが強まり、日銀が利上げを判断する材料になる。 市場では、次回12月の金融政策決定会合での利上げを見込む観測も広がっている。
日増しに強まる「トランプ関税」への警戒感
日本企業の間で強まるのが「トランプ関税」への警戒感だ。輸入関税の引き上げが実現すれば、アメリカ向け輸出の多い企業には逆風となる。 上場企業の2024年9月中間決算の発表がピークを迎えるなか、8日までに決算を発表した967社をSMBC日興証券が集計したところ、純利益の合計は18兆8052億円あまりで、前の年の同じ時期と比べ5.7%減少した。製造業は10.9%の減益、自動車を中心とした輸送用機器は30.4%の減益だ。輸出産業の追い風となってきた円安の流れが一服したためだが、トランプ氏の勝利により、来期以降の業績が見通しにくくなっている。 メキシコで生産する車の約8割をアメリカに輸出しているホンダの青山真二副社長は、決算発表の会見で、「恒久的な関税であれば対応を考えざるをえない」と懸念を示した。 日産自動車の内田誠社長は、メキシコからの輸入車への新たな関税をめぐって、「よく注視して事業の方向を見ていきたい」と述べた。 野村証券によると、前回のトランプ政権下では、通商法301条に基づく関税をめぐる動きが7回あり、日本株相場の押し下げ要因となった。 この7回での東証株価指数(TOPIX)の平均的な動きを指数化したところ、動きが起きる1か月前から発生後1週間が経過するまでの間、値下がり傾向が見られた。 「金利」「為替」をめぐる不透明感が高まり、日米の金融政策への影響も懸念されるなか、トランプ路線が市場や投資環境に与える影響を慎重に見極めようとする動きが強まっている。 【フジテレビ解説副委員長 智田裕一】
智田裕一