内視鏡AIでがんの見逃しをゼロに 世界の患者を救う使命感 AIメディカルサービス代表取締役CEO・多田智裕
大学院で気づいたのは、学術研究を究める適性は自分にはないことだった。幸か不幸か研究に身が入らず、比較的自由な時間ができた。ここで持ったのが、医療分野以外についての関心だ。ベンチャーキャピタルに勤めていた弟の影響もあり、ビジネス分野の本などを読むようになる。 「わかったのは、医療の世界の特殊性でした。働き方しかり、収入しかり。当たり前のように考えていた大きな病院で働くこと以外に、キャリアの選択肢があるのでは、と思うようになりました」 そんな折、さいたま市の再開発エリアで全国最大級のメディカルモールが開業予定だと知る。 「外科、内科、小児科、皮膚科、眼科、耳鼻科など、いくつかの診療科が同じ敷地内やビルに入居する医療施設。ここならば、専門性を生かして自分の理想の医療を突き詰められると思いました」 浮かんだのは、開業医になるという選択だった。当時の東大医学部卒業生の間では、親の跡を継ぐケースを除けば、開業は定年退職したあとにするのが常識。しかし、「隣を見ない、隣と比べない」が多田のポリシーだ。しかも、何科かわからないようなクリニックではなく、大腸・肛門外科という自分の専門知識が生かせるクリニックができると感じた。開業費用を見積もってもらうと約2億5千万円。当時34歳。さすがにひるんだが、医師は資格職業。失敗しても、どうにか時間をかけて返せるだろうと考えた。そして開業にあたって公言したのが、「世界最高の胃腸科肛門科医療を提供する」という目標だった。 「そこそこの成功で満足してしまわない。自分を小さな場所に置いてしまいたくなかったんです。それは、あまりにもったいないと思ったから」 ■患者の負担軽減のため 技術を磨き続ける 鼻から細い胃カメラを入れる最新の機材をそろえ、当時は珍しかった時間指定予約制など斬新な仕組みをいち早く導入したクリニックは、やがて年間8千件近い内視鏡検査を行う、日本トップクラスの検査数を誇るようになる。大きな収入も得られた。しかし、多田は満足していなかった。 「開業して稼ぐという目標であれば、達成しておしまいだったかもしれません。世界最高水準という目標を据えていたからこそ、クリニックの成功のみに満足することはありませんでした」