五輪日程の行方にハラハラの職人たち 「美濃手すき和紙」がアスリートに届く日は?
ユネスコ無形文化遺産登録の手すき技術で一枚ずつ丁寧に
美濃市周辺では、長良川とその支流である板取川の清流を利用して、古くから和紙づくりが行われてきた。奈良県の正倉院には、美濃で作られた702年の戸籍用紙が所蔵されているというから、歴史の長さは相当だ。 2014年、ユネスコ無形文化遺産の「和紙:日本の手漉(てすき)和紙技術」に、細川紙(埼玉県小川町)や石州半紙(島根県浜田市)とともに「本美濃紙(ほんみのし)」が登録された。このことを機に、美濃和紙の価値をさらに高め国内外に伝えようと、品質基準を明確化した3つの美濃和紙ブランドが創設された。 それが「本美濃紙」「美濃手すき和紙」「美濃機械すき和紙」だ。 古来の伝統的技法を厳格に継承するのは本美濃紙で、国の重要無形文化財でもある。原料はクワ科の植物、大子那須楮(だいごなすこうぞ)のみに限定し、その表皮を削った白皮を川で数日間さらし、すいた紙を天日干しするなど自然の力を利用して作る。 「美濃の手すき和紙は昔から技術の高さで知られ、記録用や写経用に使われてきました。江戸時代には高級障子紙として評判になり、今日では古文書や絵画など文化財の修復にも役立っています」(鈴木理事長) オリンピック、パラリンピックの表彰状に使われる予定の美濃手すき和紙は、本美濃紙とすき方は同じだが、すいた紙は乾燥機で乾かす。ちなみに、残る美濃機械すき和紙は、文字通り機械を使って、手すきに近い風合いや強さを持たせたもの。大量生産でき、コストパフォーマンスも高い。
「10日間ほどで作って」 採用までに何度も試作
表彰状にはもともと、岐阜県などが機械すき和紙を検討していた。しかし、美濃和紙をアピールするためにも、歴史ある手すき技術を使ってみてはどうか、というアイデアが出てきて、試作することになった。 試作1回目は、2018年10月。和紙100枚を10日間ほどで作ってほしいという依頼が組合に入った。当時のことを、鈴木理事長が振り返る。 「原料はすぐに手に入らない場合もあるのですが、その時はたまたま手元にあり、試作は可能でした。ただ、10日後というのであわてましたね」 「手すき和紙づくりには、原料を柔らかくなるまで煮た後、不純物を取り除く『ちり取り』という工程があり、これに時間がかかります。水の中で楮の白皮を一本一本広げて、目で見て、指先で確かめ、黒い点や固くなっているところなどを手ではがすからです。これを怠ると、きれいな白さに仕上がりません。ちり取りに3人がかりで1週間を要しました。職人が協力してなんとか期限に間に合わせることができました」 翌11月にはさらに150枚を試作。年が明け2019年5月には、色合いなどを確認するため270枚を試作。こうした過程を経て、同年7月にようやく採用が発表された。 「後から聞いたところ、表彰状に文字を印刷するプリンターとの相性など、納品後の工程がスムーズに進むかの適性を調べていたようです」