五輪日程の行方にハラハラの職人たち 「美濃手すき和紙」がアスリートに届く日は?
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、開催の行方に世界の視線が注がれていた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会。カナダやオーストラリアが早々に「今夏開催であれば不参加」と表明するなどしていたが、3月24日夜、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と安倍晋三首相が電話会談を行い、1年程度延期することで一致した。 このような動きをハラハラしながら見守っていたのが、一見、オリンピックとはあまり関係がなさそうな岐阜県美濃市の伝統工芸品「美濃和紙」の職人たち。「美濃手すき和紙」が、今大会の表彰状の用紙に使われることになっているためだ。 すでに今月16、17日に、「美濃手すき和紙協同組合」の職人たちが総仕上げの手すき作業を完了。この両日にすいた紙を乾燥させ、品質チェックを済ませて、3月末には納品するはずだった。
「美濃の底力をみせよう」 職人の力を結集し、約2万枚分の表彰状
オリンピック・パラリンピックの勝者らに、金、銀、銅と「メダル」が授与されるのは周知の通りだが、実は「表彰状」もある。対象は、メダルが上位3位までに対し、表彰状は1位から8位までの入賞者。 昨年7月、表彰状用紙が美濃手すき和紙に決まって以来、約8カ月にわたって組合のメンバーらが日々手作業で表彰状づくりを続けてきた。組合の鈴木竹久理事長が語る。 「当組合には17の工房が所属していますが、地域の関係者にも声をかけ、30歳代から90歳代までの37人で制作しました。『美濃の底力をみせよう』と総力をあげて取り組んだのです」 「総力」を要した理由は、制作枚数が膨大だったからだ。試し刷りや予備なども含めて用意した数は、なんと約2万枚。表彰状の大きさはA3サイズで、美濃手すき和紙1枚の大きさはその4倍に相当するため、約5000枚の手すき和紙を作ったことになる。 職人たちは普段の自分の仕事をストップしたり、変更したりと、時間調整を余儀なくされたという。 表彰状のデザインは未発表だが、無地の紙と、「透かし」の入った紙を重ね合わせている。透かしは、紙の厚い部分と薄い部分をつくる、美濃手すき和紙の特徴の一つだ。薄い部分を図柄や文字にすることで、光に透かしたときに明るく浮かび上がらせる。 延期についてこれほど取り沙汰されていなかった3月16日、地元の和紙関係者26人が集まり、最後の手すきを皆で行った。 原料の溶けた水の中で木の枠を揺らしながら、一枚一枚集中して丁寧にすく。この手すき方法は特徴的で、ほかの産地の多くが縦方向だけに揺らすのに対し、美濃では横方向にも揺らす。縦横交互にすいて、主な原料である楮(こうぞ)の繊維をしっかり絡めながら積み重ねていく。この「十文字すき」によって、薄くても丈夫で耐久性に優れた和紙に仕上がるという。