文学座の横田栄司、「オセロー」で復帰…いったんは断ったが「ポンコツなりの役立ち方があるんじゃないか」
2年近く休養していた文学座の横田栄司が、俳優活動を本格再開させる。復帰作はシェークスピアの4大悲劇の一つ「オセロー」。名匠・鵜山仁が演出する劇団本公演でタイトルロールに臨む。(小間井藍子)
2022年9月、出演が決まっていた舞台「欲望という名の電車」を心身の不調のため降板した。「俳優をやめよう」と求人広告を眺める日々を送っていたところ、劇団の先輩、鵜山から声をかけられた。「オセローやりませんか?」と。
「自信もないし、せりふの覚え方も忘れたので無理です」。そう断ったところ、鵜山は「もうちょっと考えてみて。別の作品でもいいし、何なら土壇場で降板しちゃってもいいから」と結論を先延ばしにしてくれた。
「すごい人だなと。演劇に対してあきらめない人は人間に対してもあきらめないんだなと思った」
最終的に出演を決めたのは昨年9月だった。「健康になったから」「芝居以外にできることがないから」という理由だけでなく、休養中、劇団の仲間に支えられた感謝の思いが大きかった。「自分は外部出演が多くて劇団の本公演にあまり出てなかった。ポンコツなりの役立ち方があるんじゃないかって」
将軍オセローは、美しい妻デズデモーナと相思相愛だが、信頼する家臣イアーゴーの裏切りによって追い詰められていく。「血の気の多い人物です。人一倍嘆きますし、涙もこぼす。そうかと思えば愛情表現も過剰で必要以上にキスをする。演じてみて感情の起伏の幅に驚かされた」と語る。
デズデモーナを演じるのは今年、座員に昇格したばかりの若手、sara。すでに劇団外でも大活躍しており、横田はその逸材ぶりを二刀流のメジャーリーガーになぞらえ「ひそかに『文学座の大谷翔平』と呼んでいる」という。「芝居もできて歌もできる。日本のミュージカル界を変える存在。入ってきた時から劇団みんなで大事に育ててきた」
そしてイアーゴーは同期の実力者、浅野雅博だ。「やっぱりお互い、何を考えてどこで苦しんでいるかが分かる。同じ劇団で育って心の共通言語みたいなものがあるから」。新人からベテランまで、劇団の総力を結集させた、極めつきの舞台が期待できそうだ。