明日香に国蝶…羽ばたく夢 師匠継ぎ、オオムラサキ1500匹羽化
鮮やかな青紫色の羽を持つ国蝶、オオムラサキが、古代史の宝庫で知られる奈良県明日香村の飼育ハウスで羽化のピークを迎えた。環境省のレッドリストで「準絶滅危惧」とされる中、人工繁殖で約1500匹が羽化。手弁当で繁殖に取り組むのは、脱サラしてオオムラサキ研究家となった林太郎さん(40)=同県橿原市在住。個人でこれだけの繁殖に成功させた例は全国的にも珍しく、「子供たちに自然や命の大切さを伝える拠点にしたい」と夢を描く。 ■昆虫館で公開 細かい網目のネットに覆われた飼育ハウスに入ると、オオムラサキが飛び交い、人の肩や頭に次々と止まる。耳元ではパタパタという羽音とともに、羽ばたくときの風も感じるほど。「なぜかとても人懐っこいんですよ」と林さん。 今年の羽化は5月20日ごろに確認され、成虫としての寿命は1カ月ほどで、その間にハウス内のエノキの葉に産卵し、幼虫も生まれている。羽化は今月末ごろまでという。ハウス内は普段は非公開だが、羽化したオオムラサキの一部は、7月上旬ごろまで橿原市昆虫館で公開されている。 ■師の背中を追って 20代前半の頃、堺市の工場で働いていた林さんは、趣味のサイクリングで橿原市昆虫館に立ち寄った際、温室内を飛び回るチョウに魅了された。 同館のボランティアスタッフとして活動を始めたのを機に、橿原市内でオオムラサキの人工繁殖に長年取り組む秋山昭士(しょうじ)さん(故人)と交流を開始。ひたむきに打ち込む姿勢にひかれて、秋山さんを「師匠」とあおぐように。工場勤務の傍ら休日に通って飼育を手伝っていたが、やがて橿原市内に移り住み、人工繁殖のノウハウを学んだ。 平成28年に秋山さんが67歳で亡くなったため、オオムラサキを譲り受けて人工繁殖を継承。令和3年に脱サラして飼育に専念した。 「オオムラサキは成虫として飼育するのが難しい」と林さん。餌は雑木林のコナラやクヌギの樹液のため、繁殖に必要な量の確保は容易ではない。そのため、乳酸菌飲料を薄めて焼酎を少し加えて発酵させた特製の餌を与えている。「師匠が考案し、毎年千匹ほどが羽化しているがみんな好んで吸っています」と懐かしむ。 オオムラサキの全国有数の生息地にあり、毎年500~600匹が羽化する山梨県の「北杜(ほくと)市オオムラサキセンター」のスタッフ、細田楓(かえで)さんは「オオムラサキは幼虫から成虫まですべてのプロセスで飼育が難しい。千匹以上も羽化させる事例は他に聞いたことがなく本当にすごい」と話す。