miwa、涙こらえて作詞 ── 被災地の中高生と歌い上げた「希望の歌」
10代に大人気のシンガー・ソングライターmiwa(24)。東北の復興を担う中高生と交流を続け、書き下ろした新曲「希望の環(WA)」が12日に発売された。歌詞の随所に、「東北のいまと未来」に関する生徒の思いが反映され、8月にパリで初めて一緒に歌った。miwaへの単独インタビューなどを通じて、知られざる「合作」ストーリーを追った。
miwaが心揺さぶられた生徒の思い
miwaはカフェで、歌詞を考えていた。「参考に」と届いた本を読み、涙をこらえた。宮城・女川町の中学生が、震災当時の率直な思いを詠んだ俳句集だった。一つの俳句が、miwaの中に響いた。 ただいまと聞きたい声が聞こえない 「大切な家族を失った気持ちそのものでした。友だちの被災状況を詠んだ句ですが、実際の体験なので『強い言葉だな』と受け止めました。たくさんの人が東北に住んでいて、亡くなった人もたくさんいる。『会ったことのない向こう側の人に届けたい』という思いで詞を書き始めました。何度も涙が出そうになりましたが」 **聞きたい声 流れる雲の上 涙の向こう 忘れないと誓った** 冒頭部分の歌詞を書き進めた。 仕事のオファーが相次ぎ、多忙を極めるmiwa。そんな状況でも曲制作を決めたきっかけは「100通の手紙」だった。東北の中高生約100人が集まるOECD東北スクールでは、フランス・パリのエッフェル塔の下で、復興を世界に発信するイベントを生徒自ら2年半かけて企画していた。「miwaさんにテーマソングをお願いしたい」と、生徒がそれぞれの思いをつづった。 「震災当時の想いや、3年経ったいま、そして未来に向けた気持ちがたくさん込められていました。『ぜひ曲をかいてほしい』とのメッセージには、心うたれました」
中学生の俳句、大人も共鳴
2011年5月。当時、女川第一中学3年生だった木村朱里(あかり)さん(18)は、国語の授業の課題だった俳句が書けなくて、悩んでいた。「がんばると書けばいいのか、悲しみなのか」。自宅に帰って考えることにした。幸い自宅と家族は無事だったが、親を亡くした友だちはたくさんいる。家族が「ただいま」と家に戻ってきた。「家族がいて会話するという当たり前のことが、すごく大切に感じた時期でした」。 ただいまと聞きたい声が聞こえない 夜、自分の友だちを想像して、俳句を作った。木村さんはじめ女川町の中学生が考えた俳句はその後、「女川一中生の句 あの日から」「まげねっちゃ」などの書籍に盛り込まれた。 隣町の石巻高校(石巻市)に進学した木村さんは、OECD東北スクールに参加した。今年春、「100通の手紙」を読みテーマソングの制作を決めたmiwaと、木村さんなど生徒8人は直接出会った。自分の俳句が入った本2冊を手渡し、思いをさらに伝えた。 木村さんの下の学年にあたる女川町の中学生は、別のプロジェクトを考えた。「1000年先まで記憶を残したい」との思いのもと、町の21の全ての浜で、津波が襲ってきた高さの地点に石碑を建てる計画。大人も次々と共鳴し、実際に石碑が建ち始めている。それぞれの碑には、「夢だけは壊せなかった大震災」など後世に残したいと中学生が願う俳句が刻まれた。女川港を見下ろす神社に建つ石碑には、木村さんの俳句が刻まれている。