頭脳的「サインプレー崩れ」で県決勝導いた富山東MF松本翼主将、“文武一貫”で決戦前日も7時間受験勉強「どっちも好きやから」
[11.4 選手権富山県予選準決勝 富山東高 1-0 富山北部高 高岡スポーツコアサッカー・ラグビー場] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 伝統校・富山東高を9年ぶり県決勝に導いた決勝点は、MF松本翼主将(3年=芳野中)の機転を利かせた“サインプレー崩れ”から生まれた。 0-0で迎えた準決勝・富山北部高戦の後半29分、富山東は敵陣右サイドでFKを獲得すると、準備してきたサインプレーの準備体制に入った。当初の狙いは右利き側のキッカーに立っていたMF今井悠太(3年=スクエア富山)がボールを通り越し、スプリントで右サイドに抜け出すと、同じタイミングでペナルティエリア内のFW遠藤優太(2年=富山U-15)がボールに近づき、左足キッカーの松本との3人で崩すという形だった。 ところが直前のプレーでファウルを受けていた遠藤が足を痛めてピッチを離れていたことで計算が狂った。遠藤の代わりにFW吉崎将伍(2年=広田FC)がクサビ役を務めたが、吉崎は早めにボールに近寄ってしまったため、相手DFがパスコースをカバー。このまま松本がサインどおりにパスを出してしまえば、人数をかけていたぶん、逆にカウンター攻撃を浴びかねない場面となった。 しかし、ここでキッカーの松本は判断を変えた。 「エンちゃん(遠藤)に出してユウタ(今井)って行くはずだったけど、エンちゃんが足を痛めていたのでショウゴ(吉崎)にやらせようってなって、でもアイツが予想以上に早く動きすぎて、俺も声出して『早っ!』って言っちゃって(笑)。パスを出そうと思ったらニアのDFがショウゴについてきて、でもそうしたらユウタのほうが空いたので、もう直接でいっかと」(松本) 松本が狙ったのはコースを切られた吉崎へのクサビではなく、右サイドを抜け出した今井へのスルーパス。今井は当初からクロスを上げる役割だったため、サインプレーのプロセスを一つ飛ばした格好だ。結果的にこの判断が奏功。綺麗に抜け出した今井のクロスからDF中田航平(2年=水橋FC)のゴールが決まり、これが試合の決勝点となった。 「ミスだけどこれでOKというか、サインプレーやけどサインプレー崩れみたいな……(笑)」 当の松本は苦笑い気味にそのシーンを振り返ったが、セットプレーのトリックは“型を決めすぎない”のも成功率を高めるコツ。実は試合前日の練習で「自分たちの形をやりすぎて『サインプレーやとしても判断はちゃんと変えるべきだ』って言われていた」(松本)といい、上田裕次監督のマネジメントも実ったビッグプレーだった。 ■サッカーと勉強。目指すは「真の両立」 そんな主将の巧みな駆け引きで相手を上回った富山東だが、その頭脳はサッカー面だけに限らず、勉学でも県内随一の進学校として知られている。主将の松本も今冬、関東の有名国立大の一般受験を予定。この試合の前日も午後1時からのトレーニングの合間をぬって、午前は自宅、夕方以降は塾で合計7時間の受験勉強をこなして試合に臨んでいたという。 試合会場の高岡市は松本の地元で、この日の試合は午後1時30分キックオフ。「自分は家がすぐそこでチャリで5分くらいで来られるんで、8時に起きても大丈夫。12時に寝られれば8時間も睡眠時間が取れる。さすがに今日の朝は緊張もあって勉強できなかったですけど……(笑)」。軽快な口調の裏でも綿密なタイムマネジメントへの意識をのぞかせた松本は「でも今日帰ってからはできそうですね。気分が乗っとるんで(笑)」とも明るく話し、報道陣を笑わせていた。 今季の富山東では8人の3年生がチームに残り、冬の選手権まで高校サッカー生活を継続。当初は松本だけが夏のインターハイ後も部活動を続ける予定で、「一人はやっぱり寂しいなとか思っていた」というが、学業優秀のMF荒俣楓太(3年=滑川中)が続ける決断をしたことで、学業とサッカーの両立を目指す機運が一気に高まってきたのだという。 そうした「文武一貫」(上田監督)が実っての県決勝。「共通テストまであと2か月ということで共通テスト対策もしながらサッカーをしているけど、でもどっちも好きやから誰よりも充実した生活を送れているかなという実感があるし、その努力がこうして実を結んでいると思う」。全国大会まで進めばさらに大学受験までの時間は忙しくなるが、松本には両立を通じて示したいものがあるのだという。 「もちろん決勝も勝って、真の両立をしたいと思っています。高校生活ではサッカーと勉強、どっちもできるんだぞということを他の中学生たちにも見せられれば、彼らもどっちかに偏らずに済むと思うし、勉強するのは絶対いいことやと思うから、どっちもできるんだよということを自分たちが証明できたらいいですね」 富山東からは昨季の主将も、松本の志望する国立大に進学しており、「いつもLINEをしてくれて、もっと行きたいなと思えた。いいところに行って大学でサッカー頑張ろうと思って、そのおかげで勉強もサッカーも頑張れた」と刺激を受けているという松本。47年ぶりの全国出場がかかる9日の決勝では先輩からもらった恩も胸に、県内のサッカー少年少女に“文武一貫”の姿勢を示すつもりだ。
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