大谷翔平、野茂英雄、ハーシュハイザー…日本でプロ目指した韓国人 日米レジェンド、ドジャースとの不思議な縁に野球小僧の血が騒ぐ
【ソウル池田郷】米大リーグ・ドジャースに移籍した大谷翔平投手が今季開幕戦に臨む韓国に、特別な思いでドジャーブルーのユニホームを見つめる韓国人がいる。ソウルの会社員、申東天さん(39)。地元の大学を卒業後、元ドジャースの野茂英雄さんが設立したNOMOベースボールクラブ(NBC)に入団。プロの夢は断念したが、ドジャース旋風に沸く韓国で暮らす今、野茂さんとの思い出が鮮やかに浮かび上がるという。 ■ドジャースのレジェンドと2ショット【写真】 ■レジェンド野茂の気遣い 「よろしくお願いします。慣れない海外生活に苦労するかもしれないけれど、頑張ってください」 2009年、NOMOベースボールクラブのトライアウトに合格して新加入した申さんに、理事長の野茂さんはそんな声をかけてくれた。 日米通算201勝の輝かしい実績を残した野茂さんだが、メジャー移籍の道は険しかった。現在のポスティングシステムが存在しない時代。当時の近鉄で大エースだった野茂さんは、球団との交渉が決裂して単身渡米。ドジャースと契約したものの、最低年俸でのスタートとなった。 イチローや松井秀喜、ダルビッシュら日本選手のメジャーでの活躍は、野茂さんがパイオニアとして道を切り開いたからこそ。そんな波瀾(はらん)万丈の経歴を知る申さんは、異国の地に飛び込んだ自身の不安を察し、優しい声をかけてくれた野茂さんの気遣いに心を打たれた。 申さんは野茂さんの言葉を胸に、昼は酒店で配達の仕事をしながら夜間の練習に励んだ。
◆野茂さんからの教え
野茂さんといえば、上半身を大きくねじる個性的な「トルネード投法」が持ち味。速球とフォークボールを武器に三線を量産し、ノーヒットノーランも記録した。 申さんはNBCで、身長187センチ、当時体重90キロ近くあった。体幹の強さを生かして、外野手として打撃を磨く一方、投手にも挑戦した。 野茂さんは申さんに、メジャーの打者をきりきり舞いさせたフォークボールの投げ方を直伝した。 もともと申さんのフォークはフォーシーム系の握りをしていたが、野茂さんの助言でツーシーム系の握りに変えてみた。不規則な回転が加わり、落差も大きくなった。 外国人にも分け隔てなく接するレジェンドの生きざまは、申さんの生き方に大きな影響を与えた。 ■ハーシュハイザーさんと遭遇 申さんは帰国後、仕事の合間に野球やソフトボールを楽しんでいる。 一時期はソウルの日本人会「ソウル・ジャパン・クラブ」に所属し、主軸として打ちまくった。韓国での仕事や生活になじめないチームメートの日本人駐在員への気配りを忘れなかった。日本で受けた野茂さんや友人の心遣いを忘れていないからだ。 大谷フィーバーに沸く韓国。申さんは16日、ソウル・汝矣島(ヨイド)のショッピングセンターで偶然、野球解説者として現地入りしたドジャース往年の名投手、ハーシュハイザーさんを見かけた。 申さんが「私もピッチャーでした。あなたのことを尊敬しています」と英語で声を掛ると、ハーシュハイザーさんは記念写真に応じてくれた。 大谷、野茂、ハーシュハイザー…。ドジャース開幕戦を前に、韓国ソウルにいながら日米のレジェンドたちを身近に感じられる幸せな日々。申さんの野球小僧の血が騒ぐ。
西日本新聞