美の「額縁」を作り続けた建築家・谷口吉生が逝去。享年87歳。
たくさんの美しい建築を残して、谷口吉生が亡くなりました。享年87歳でした。 どこまでも端正で、崇高ささえ感じさせる建築。ミニマルな空間には気品が漂う。谷口吉生は1937年、和風モダニズムの名手、建築家・谷口吉郎の長男として生まれた。ハーバード大学大学院で学び、丹下健三都市・建築研究所を経て独立する。その後は〈金沢市立玉川図書館〉(谷口吉郎と共同設計)、〈資生堂アートハウス〉(高宮眞介と共同設計)、〈東京都葛西臨海水族園〉などを手がけた。 【フォトギャラリーを見る】
中でも美術館建築には定評があった。〈豊田市美術館〉では多様なプロポーションの部屋に柔らかい光が降り、心ゆくまでアートとの対話が楽しめる。〈東京国立博物館 法隆寺宝物館〉で大きな水盤を渡って天井の高いロビーを通り、静謐な展示室で仏像と向き合う道行きは格別だ。〈鈴木大拙館〉では建物そのものが大拙の禅の思想を体現するかのようだ。そのほかにも〈丸亀市猪熊弦一郎現代美術館〉、〈ニューヨーク近代美術館新館〉、〈京都国立博物館 平成知新館〉など、それぞれに特別な体験をさせてくれる。
父、谷口吉郎が設計した〈迎賓館赤坂離宮別館 游心亭〉の茶室などを再現した〈谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館〉で彼は「父の建築の額縁のようになればいい」と思った、と語った。谷口はほかの美術館でも絵画や彫刻の「額縁」を作るような気持ちでいたのかもしれない。彼は自作について多くを語らないことでも知られていた。建築家は黒子に徹するべきだ。そんな信念を抱いていたようにも思われる。 抑えた表現に完全な美が潜む谷口吉生の建築。彼と同じ時代を過ごし、その建築を味わえる幸福に改めて感謝しよう。
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text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano