パラパラはギャル発祥の文化ではない? 朝ドラ『おむすび』で描かれるパラパラが持つ意味
朝ドラ『おむすび』(NHK総合)で、「糸島フェスティバル」で開催される「アマチュアパフォーマンス大会」のために、なぜかパラパラの練習を強制されることとなった米田結(橋本環奈)。結の姉・歩(仲里依紗)が伝説のギャルと呼ばれる所以の一つに“パラパラのフリ覚えの速さ”が挙げられるほど、パラパラは平成ギャルの大事な要素だ。平成5年生まれの筆者にとっても、“ギャル=パラパラ”といった印象がある。 【写真】ハギャレンに囲まれる結(橋本環奈) しかし、実はパラパラはギャル発祥のダンスではない。元々はバブル期真っ只中の1980年代後半から90年代にかけて黒服が集客の一つとして始めたもので、ギャルというよりもバブル世代の若者の間で流行り始めたものなのだ。当時は曲ごとの公式振り付けは存在せず、店ごとに振り付けを作っていたため、熟練者から教えてもらうか、自分で見て覚えるしかなかったそうだ。 『不適切にもほどがある!』(TBS系)で、平成初期にディスコ「マハラジャ」で黒服として働く犬島ゆずる(錦戸亮)が、“小川純子(河合優実)との結婚の許しを請うダンス”を小川市郎(阿部サダヲ)に向けて披露するシーンがある。言われてみれば、このシーンのダンスはギャルが踊るパラパラの振り付けにも通じる動きがあり、パラパラ黎明期のダンスと呼ぶことができる。 バブルの崩壊、ディスコの閉店などにより、第1次、第2次パラパラブームも徐々に下火に。衰退しかかっていたパラパラブームに再度火をつけたのは、『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)の1コーナー『バッキー木村』だったという説がある。木村拓哉が担当したキャラクターがパラパラの有名曲「NIGHT OF FIRE」に合わせてパラパラを踊ったのだ。木村は、自身のラジオ番組でパラパラの独特な振り付けがツボにハマってコントで採用したことを明かし、パラパラは意外と難しく、毎回真剣に取り組んでいたと当時を懐かしんでいる。(※)その後、SMAPがバックダンサーにパラパラダンサーを起用するなど、パラパラはテレビでの露出が増え始めた。メディアで取り上げられたのと同時に、バブル期の熟練者たちが一世代下のギャルたちに伝承する形で流行りはじめ、神楽坂や渋谷のクラブで一大ブームを巻き起こした。メディアでの取り上げ、世代を超えた伝承が同時期に起きたことで、1999年から2002年頃に第3次パラパラブームが発生。これがパラパラ文化の代表として成り立っていったのだ。 『おむすび』で描かれている2004年はトランス曲で踊るトラパラが生まれた頃で、第7話でルーリー(みりちゃむ)、タマッチ(谷藤海咲)、スズリン(岡本夏美)が披露したダンスはトラパラに属する振り付けのものだ。この頃には、ギャル雑誌で特集が組まれたり、イベントが開催されたり、振り付けビデオが販売されたりするようになったという。ちなみに、『おむすび』で、ギャル監修、パラパラ指導を担当しているRumiも、この時代にギャル雑誌『egg』の専属モデル・ルミリンゴとして活躍していた。 筆者にとって印象深いのは、2006年に放送されたドラマ『ギャルサー』(日本テレビ系)。ギャルサー内で起きるトラブルなどが描かれ、戸田恵梨香や新垣結衣、鈴木えみらがギャル姿でパラパラを踊っていたのを覚えている。第4次パラパラブームとなる2000年代後半は、1990年代後半に比べれば落ち着いたものの、雑誌やドラマの影響もあり、変わらずギャルに憧れる若者がいた時代だ。 パラパラは誰かが生み出したものに憧れ、自分もやりたい、誰かに伝えたいという想いによって続いた文化だということができる。『おむすび』の作中でリサポン(田村芽実)が平成ギャルそのものを愛しているように、ギャル文化自体が若者たちのカッコいい、かわいいという想いが繋いだ文化だ。同じものに憧れる同士だからこそ、博多ギャル連合(ハギャレン)メンバーは集まって“ミーツ”を行い、プリクラを撮り、パラパラを踊る。何のために? と思える時間は、同じ価値観を共有していると確かめあうための時間なのだろう。 ギャルサーがそういった集まりである以上、未だギャルに嫌悪感を抱く結に対して、タマッチが心を開けないのは仕方がないこと。ハギャレンのメンバーは、ギャルの楽しさを伝えて仲間を集めるために、パラパラを練習している。同じ方向を向いていることを表すパラパラへの取り組みは、結がハギャレンメンバーとどう関わっていくのかを象徴するものになりそうだ。 ■参考 ※ https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2021/08/01/kiji/20210801s00041000392000c.html ※ https://galture.com/trend/parapara.html
古澤椋子