「イスラム国」はなぜ国家ではないのか?
2014年6月、過激派組織「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)が、シリアからイラクに跨る一帯で建国を宣言した「イスラム国」(IS)。ISはラッカを「首都」に定め、住民から税金を集め、電気などのインフラを提供するなど、その実態は「国家」に限りなく近いものにみえます。しかし、ISを「国家」として承認する国はありません。ISは、「国家」なのでしょうか。【国際政治学者・六辻彰二】 【図解】「イスラム国」の活動領域は?(2015年1月15日現在)
「国家の三要素」から見ると
ドイツの法学者ゲオルク・イェリネック(1851~1911)は国家の三要素として「主権、領土、国民」をあげました。この三要素は、現代でも一般に国家の要件として認められています。 この観点からISをみると、彼らはラッカを中心とする一帯を自分たちの支配下に置いていると主張しており、2014年11月には独自通貨の発行を宣言しました。しかし、その地域ではイラクやシリアだけでなく、シーア派民兵やクルド自治政府も実効的な支配を目指しています。つまり、「正統で唯一の権力」としての「主権」を、ISがこの地域でもっているとはいえません。 ISは独自のパスポートも発行しており、彼らの目には「IS国民」がいると映るかもしれません。しかし、ISの支配地域に暮らす人々が、全てその支配に従っているわけでないため、「その領域で暮らす人々の総称」としての「国民」がいるとはいえません。ISを「国家」として承認している国がないため、そのパスポートで他国に入ることはできません。
「独立宣言」に有効性はある?
次に、ISが行った「独立宣言」の有効性について取り上げます。ISの「独立宣言」は、国際法的に有効なのでしょうか。 独立宣言そのものを禁止する国際法はありません。ただし、その土地の「正統な」支配権を既に認められている政府の承認なしに分離や独立を宣言した「国家」を、国際法上の国家として認めるか否かに関しては、国際法学者の間でも見解が分かれています。 ・違法な分離や独立によって成立した「国家」は、国際法上無効である(スイスの国際法学者M.G.コヘイン)、 ・違法な分離や独立によって成立した「国家」は、「国際法上の国家」とは認められないが、「(国家に準じる)事実上の政権」と認められる(ドイツの国際法学者J.A.フロバイン)、 ・違法な分離や独立によって成立した「国家」でも、国家の三要素などの要件を満たせば、「国際法上の国家」として認められる(イタリアの国際法学者A.タンクレーディ)。