僕はMCでも司会者でもない――。くりぃむしちゅー上田晋也、芸人としてのこだわり
テレビ局のエレベーターで一緒に乗り合わせたタレントに「今日は何の番組ですか?」と尋ねて、自分がレギュラー番組で参加している番組名を返されて慌てて謝ったこともあった。基本的に誰がゲストに来るのかを事前に聞いていないし、下調べもしていないので、時にはそういう悲劇が起こる。ただ、そこには上田なりの考えもある。 「別にやる気がないわけじゃなくて、あんまり必要性を感じてないんですよね。深くリサーチをしても視聴者が置いてけぼりになるんじゃないかっていうのがあるから。たとえば、僕が興味のあるプロボクサーにインタビューをするとしたら、自分がちょっと知ってるから深い質問をしちゃう場合もあるんですよ。 でも、それって客観的に見ると視聴者にはわかりづらい話だから、オンエアではカットされてたりするんですよね。だから、僕は下調べをしたくないとかじゃなくて、視聴者の皆さんと同じくらいの目線でいたいだけなんです。……でも、俺、全然知らないんだから、視聴者の目線にも追いついてないか(笑)」 幅広い世代に支持される上田の司会術の極意は、わかりやすさにこだわる「素人目線」にあった。司会という仕事に対する向き合い方が独特なのは、そもそも自分が司会者であるという意識が薄いからかもしれない。 「僕は自分をMCとか司会と思ったことは一度もないんですよ。台本に『司会の上田晋也です』って書いてあってもそこは読まないようにしてるぐらい、自分では言わないようにしてますね。 僕の司会ぶりを褒めていただくこともたまにあって、それはもちろん嬉しいんですけど、おいしいラーメンを作りたくてラーメン屋をやっているのに、自分がこだわっている麺とかスープじゃなくて、最後にのせただけの市販のコーンとかを褒められている感じなんですよね。いやいや、そこを褒められてもな、って」と複雑な様子だ。 司会者として脚光を浴びつつも、芸人としてのこだわりも持ち続けている。ツッコミ担当の芸人としてのプロ意識は、今年4月に刊行された2作目となるエッセー本『激変 めまぐるしく動いた30代のこと』(ポプラ社)にも表れている。何しろ、本文中にやたらと「たとえツッコミ」が多い。でも、そこが面白い。