日本だけでなく海外でも興味深いモデルが続々! 各社の工夫と独自デザインが光るウルトラコンパクトカーの魅力
▼フランス/シトロエン
ひとつは、仏シトロエンが開発した「アミ Ami」。全長2410mmしかない2人乗りのピュアEVです。フランスの空港のサービスカーで使われていたり、パリの街角にある充電スタンドに停まっているのを見かけたりします。 前後のタイヤがボディの四隅ぎりぎりにあって、側面から見ると、前後輪のあいだはドアが占めています。そこに金魚鉢を逆さにしたようなキャビンが載っかっています。サイドウインドウは半分だけしか開きません。 アミってフランス語で”友だち”の意味。もうひとつ、アミには意味があります。シトロエンが1961年から78年まで作っていた小型車です。2CVというモデルの車台に、乗用車的なボディを載せたクルマであります。 見る人によってはキュートと思えるボディの魅力も手伝って、いまもけっこう人気のあるモデルです。同じ名前を使ったのは、オリジナルのイメージの再来も狙っているのでしょう。
▼イタリア/フィアット
コンパクトカーづくりにおいては、シトロエンに負けない“伝統”を持っているのがイタリアのフィアット。23年7月に全長2535mmのピュアEV「トポリーノ」を発表しました。 イタリア語でハツカネズミを意味するトポリーノは、1936年にフィアットが手がけた「500」の愛称です。これがいわば最初のチンクエチェント。2人乗りですが、後ろにひとが乗れてしまう大きな荷物置き場を持っていたのが特徴です。 ルーフは、エンジンの騒音を逃がすのと、万が一クラッシュ事故のときの緊急脱出用とを兼ねて、ゴム引きキャンバスのルーフでした。ドアを使わずルーフから車内に出入りできちゃう様子は、『ローマの休日』(1953年)や『甘い生活』(60年)といったローマを舞台にした映画でも観ることができます。 新世代のトポリーノには、まさに『甘い生活』の原題である「ドルチェビータ」という仕様が設定されています。特徴はドアがないこと。乗員が転げ落ちると危ないので、ロープが1本渡されています。 EU(欧州連合)には「クオドリサイクル Quadricycle」(四輪軽自動車みたいな意味)というジャンルがあります。もともと欧州では、日本でいうところの普通運転免許が必要ない小さな1人乗りのクルマが存在していました。日本では「虫」なんて呼ばれていました。そんなクルマのために特別な免許制度があります。 今回は、1992年に原案が作られ、2000年代になってから具体案が練られてきました。英国を含む欧州各国で、普通免許取得可能な年齢に達する前の14歳から16歳など、ある種の交通弱者を対象に、小さなクルマの運転許可を与えるというものです。アミやトポリーノは、その市場も対象のようです。 少なくとも欧州では、クルマがないと生活ができない都市が多く存在します(たとえばローマ)。ウルトラコンパクトカーは趣味の道具というより生活必需品。でもどうせだったら、キュートにデザインしようというのはメーカーの心意気。そこはとてもいいですね。
<文/小川フミオ>