夫のDV発言でうつ病に。両親の虐待で「家庭」に憧れる私は、離婚にも踏み切れない。息子の夜泣きも夫婦関係の影響か
◆「精神科に行くなら遠くの病院に」 「精神科を受診したいんだけど」 私のこの一言が、再び夫婦のバランスを崩したきっかけだったように思う。元夫はあからさまに顔をしかめて、「なんで?」と問うた。おそらく、変わる努力をしているにもかかわらず、妻がいっこうに元気になる兆しが見えないことに苛立っていたのだろう。 「うまく眠れないし、気持ちがしんどいから」 「しんどいって、どういうふうに」 「……あなたに言われた言葉がどうしても消えなくて、何度も思い出してしまって、しんどい」 躊躇いながらも本音を口にした私に、元夫は不機嫌さを隠さぬ声でこう言った。 「別に、病院に行くのは好きにすればいいけど。精神科に行くなら遠くの病院にしてね。もし通っているところを近所の人に見られたら体裁が悪いから」 同じような台詞を、過去、身内からも言われた。元夫との交際時にも私は精神科に通っており、当時の彼は通院に付き添ってくれたこともあったのに、夫になり、家族になったら、「隠したい」と思うらしい。内科も、外科も、呼吸器内科も、通っている事実を隠さねばと思う人はいないのに、精神科に通っている人だけが、「知られないように」と身をすくめている。そうさせているのは本人ではなく世間なのに、周囲は簡単に「堂々としていればいい」などという。 企業が掲げる障害者雇用においても、軽度の身体障害者のみを対象として雇用するケースは珍しくない。精神障害者は、「障害者枠」の中でさえ排除されがちだ。社会に蔓延する根強い差別と偏見が、精神疾患を患う人々の権利を損ない、可能性を狭めている。
◆うつ病と診断されて 当時の私には、元夫の言葉に言い返す気力がなかった。精神疾患者への偏見など、とうの昔に慣れていた。元夫の言葉に従い、高速道路を使って片道2時間ほどの病院を受診した。担当主治医は女性で、ハキハキとした物言いの方だった。数枚にも及ぶ問診票に記入し、およそ1時間の初診を終えて、私はうつ病と診断された。 元夫との間にあったことを主治医に告げた際、「旦那さんの発言・行動は明らかにDVです」と明言された。この時、診断書を取っておくべきだった。離婚の際、何度そう悔やんで歯噛みしたかしれない。 配偶者のDVやモラハラで心身の調子を崩した場合、病院を受診して診断書を取得することが、のちの自分や子どもたちを守ることにつながる。とはいえ、つらい時は何をするにも億劫になるし、判断力も鈍くなる。だからこそ、只中にいる人が適切な支援につながれる体制づくりが必要なのだ。 私は、元夫との夫婦関係の再構築を望んでいた。息子にとっても、それが最善の道だと信じていた。通院をはじめたのもそのためで、根本の原因に向き合わなければ、回復は望めないと思った。しかし、元夫は、私が精神科に通院することを当てつけに感じたようだった。 「一緒にいるせいで病気になるような人間とは、やっぱり離婚したほうがいいのかもね」 投げやりにそう言って別室に引きこもる元夫の背中に、私はなんと声をかければよかったのだろう。怒りをぶつければよかったのか、淡々と説き伏せればよかったのか、今でもわからない。ただ、この時はおそらく何を言っても無駄だったろうと思う。自分が聞きたくない言葉は、すべてシャットアウトする。私の“感じかた”のせいにする。そういう人だった。
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