【連載 泣き笑いどすこい劇場】第27回「その気持ち、分かります」その5
稀勢の里以上にうれしそうに声を上ずらせていたのが父親
いやあ、その気持ち、よく分かるよ、と肩の一つも叩きたくなるような、納得がいく話でも紹介しましょうか。 勝負をしているワケですから、土俵の周りは不本意なことだらけです。 時には、ワナワナと怒り狂い、あるいは喜び過ぎて脱線することも。 でも、そうなるには、ちゃんと理由が。 そんな人間の心のひだをつまびらかにするような面白エピソードを。 ※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。 【連載 泣き笑いどすこい劇場】第26回「悔しさ」その4 息子の歴史的快挙 力士は郷土の誉れ、その両親にとっては誇りだ。平成22(2010)年九州場所2日目は横綱白鵬(現宮城野親方)の連勝が史上2番目の63でストップした歴史的な日だ。実に5場所、297日ぶりに喫した黒星で、殊勲の星を挙げたのが東前頭筆頭の稀勢の里(のち横綱、現二所ノ関親方)だった。 勝敗が決したあとの両者の表情も対照的。負けた白鵬は20分間も風呂場から出て来ようとせず、価値ある金星をもぎ取った稀勢の里は頬を真っ赤に紅潮させて誇らしげにこう話した。 「場所前から、会う人、会う人に、頑張れ、白鵬を倒せ、と言われ、日本人(力士)が止めないといけないという気持ちがなかったと言われれば、ウソになる。そういう人たちに応えることができてうれしい。勝因は、諦めなかったことと、(攻めを)休まなかったことです」 この稀勢の里以上にうれしそうに声を上ずらせていたのが父親の萩原貞彦さんだった。マスコミの電話取材にこう答えている。 「勝った瞬間、思わず大声を上げました。家には私一人しかいなかったんですが、あれを見て歓声を上げない親がこの世にいるでしょうか」 そりゃそうです。 月刊『相撲』平成25年1月号掲載
相撲編集部