化学燃料タンクローリーに食用油を入れられても、抗議しない中国人の心理
<中国でまた食品汚染問題が起きた。日本の「汚染水」にはわざわざ国際電話で電凸するのに、自国の食用油汚染や毒ミルクなどの食の安全事件に抗議せず、知らんぷりするのはなぜか>
「俺が料理を炒めるとき、いつも炎が大きく立ち上がる。それは俺の腕前だとずっと思っていたのに、何と、サラダ油の中に灯油が混ざっているのが原因だった──中国人シェフ」 中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は? 先日、中国メディアの「新京報」が、ある中国大手企業のタンクローリーが「コスト削減」名目で化学液体燃料の石炭油を輸送した後、タンク内の清掃をせずに、そのまま食用油を入れて輸送した、という調査報道記事を公開した。中国ネットは一時大騒ぎになり、誰かが冒頭のジョークをSNS上にアップ。一方で、家庭用油搾り機の人気が急上昇した。 実に中国式な対応である。日本なら、まず政府や企業が記者会見で謝罪。満足する対策が出なければ国民は大きな声で抗議し、法律で自らの権利を守ろうとするだろう。 中国人に集会や抗議の自由はなく、普通の人々は政府や企業の責任を追及する強い権力もない。唯一できるのは、事件を揶揄するジョークをネットでシェアしながら、さっさと家庭用油搾り機を購入すること。彼らは家で食用油を搾って自給自足で身を守る──購入した油の原料に問題なければだが。 今から10年前にも中国メディアが同じような記事を報じたことがあり、この事態は公然の秘密だった。10年前と同じく、今回も一時的に話題になるが、そのまま棚上げにされるだろう。 ■この政権にしてこの人民あり 権力者と悪徳業者がかばい合う社会で、権力のない普通の人々が頼れるのは自分だけ。他人に関心を持つ余裕も、抗議する気力もない。ゆがんだ社会で利己的な振る舞いは当たり前。この特徴を、台湾の作家・柏楊(ポーヤン)は著書『醜い中国人』で「利己的・劣等感の一面、傲慢で見えっ張り」と評した。 それは、わざわざ靖国神社にやって来て放尿や落書きをし、中国SNS上で「愛国心」を見せびらかす行為や、日本の原発処理水の海洋放出に抗議して、たくさんの中国人がわざわざ福島に嫌がらせの国際電話をかけたことでも分かる。 しかし、彼らは自分の目の前で起きる食用油汚染や毒ミルクなどの食の安全事件は知らないふりをする。仮に自分が被害者になっても、権力者にひざまずいてお願いしかできない。この政権にしてこの人民あり。日本や日本人に八つ当たりするのは、抑圧の反動にほかならない。 <ポイント> 化工、纯正食用油 化学工業(製品)、混ぜ物のない食用オイル 柏楊 1920年、中国・河南省生まれ。大陸が共産党に制圧された後、台湾へ。教師や夕刊紙の副編集長などを経て作家・コラムニストとして活動を始める。『醜陋的中国人(醜い中国人)』で、中国の文化を「酱缸文化(タコツボ文化)」と評し、その閉鎖性を批判した。2008年没。
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)