朝ドラ『ちりとてちん』共演者が教えてくれた役者として生きる道 橋本淳
役者は仕事をしていないときが勝負
失意の中、オーディションで勝ち取ったNHK『連続テレビ小説 ちりとてちん』のヒロインの弟役で思わぬ転機が訪れた。今まであまり経験のなかった舞台俳優のベテランたちとの共演が、橋本の俳優人生を大きく変えたのだ。 「松重豊さん、キムラ緑子さん、松永玲子さん……。共演させていただいて、今まで触れずにきた舞台や演劇の世界を意識し始めました。有名劇団の芝居や大劇場の芝居を観に行ったり、前衛的なものや青年団系の小劇場に触れたりするようになり大きな刺激となりました」 20代前半に訪れた挫折があったからこそ、本当にやりたかったことにめぐり合えた。どん底にいた橋本を救ってくれた大先輩からの教えは今でも心に深く刻まれている。 「役者は仕事をしていないときが勝負。人生でチャンスは3回やってくる。スポットライトを浴びているときに何ができるのか、今まで生きてきて何を準備してきたのかをその3回で出せないと無理。ただ続けていれば3回チャンスがある。そのうちのどれかを当てればいいんだ」 先輩からのアドバイスで、オフの日こそ何をするのかを意識し始めた。動くことも大切でもあり、あえて何もしないのも勉強だと思った。 「自分の中で客観的に俯瞰しながらオフを過ごすのが大切、それが後の芝居に生きてくる。それを教えてくれたのが朝ドラの共演者のみなさんです」
舞台に主軸を置きつつも、映像作品もやっていきたい
朝ドラ出演以降、橋本の興味は舞台に傾倒していく。ときには事務所に内緒で履歴書を出したり、オーディションを受けたりして、合格してから、「絶対、やりたい。絶対、面白いから」と後から事務所を説得するということも。2014年12月に行われた山内ケンジ作・演出の城山羊の会『トロワグロ』もそのひとつだ。翌年、『At the terrace テラスにて』として映画化されロングラン上映中となっている。 「映画やテレビドラマは、自分一人では決められませんけれど、舞台に関してはどんどん役を取りに行く姿勢を貫いていきたい。この人とやりたい、という作品を見つけたら、これからも直談判していくつもりです」 舞台での演技と経験が評価されたこともあり、『PTA グランパ!』など、映像のオファーも再び増え始めている。大好きな舞台を主軸に置きながら、映像作品にもどんどん挑戦していきたいという。 「この先どうなるわからない、そういう人生を楽しみつつ、やるべき仕事と真剣に向き合う。そうすれば次の仕事につながっていくんじゃないかと思う。『この役をぜひ、橋本さんにやってほしい』とも言われたいし、選ばずにきた仕事をやっていくのも、いい役者になれる道だと思います」 ■橋本淳(はしもとあつし) 1987年1月14日生まれ。2004年にドラマ『WATERBOYS2』でデビュー。『連続テレビ小説 ちりとてちん』(07-08年)に出演。 以降、TV、映画、舞台と幅広く活躍中。 最近の出演作に、舞台は『キネマと恋人』(16)、『クレシダ』(16) 、映画 は『At the terrace テラスにて』(16)など。現在、『PTA グランパ!』(NHK BSプレミアム午後10時から)山下秀憲役(小学校教諭)として出演中。6月13日より、国立劇場にて舞台『君が人生の時』に出演が決まっている。