結婚、出産からの復帰作…石原さとみが映画『ミッシング』で“美”を封印し見せた「鳥肌ものの慟哭」
石原さとみが主演するドラマ『Destiny』(テレビ朝日系)の最終回が6月4日に放送され、「X」の世界トレンド1位を獲得。さらに配信再生数でも同局のGP帯最高記録を更新。結婚、出産を経て3年ぶりに出演した今作で、石原は堂々の復活を果たしている。 【思わず絶句…写真あり】石原さとみ 綾野剛との路上「抱擁」姿 しかし石原の快進撃は、これだけではない――。 5月17日に公開された主演映画『ミッシング』は、公開3週目でも週末映画動員ランキングで第7位を記録。公開4週を経て、社会的な事件を扱った作品にもかかわらず、興行収入も4.4億円と好調。石原の熱演ぶりに、涙を流す観客が続出している。 この映画は、ある日突然幼い娘が失踪。その時、沙織里(石原)が推しのアイドルのライブに足を運んでいたことから、ネット上では“育児放棄の母”として誹謗中傷の標的となり、日常が少しずつおかしくなり始め、追い詰められていく。 これまで、“美のカリスマ”として君臨してきた女優・石原さとみだが、今作ではイメージを一新。添加物の多い食事を摂り、ジム通いを控えて体を緩め、髪をボディシャンプーで洗い、くたびれた佇まいを醸し出す姿には、衝撃が走っている。 今作を手掛けるのは、森田剛がシリアルキラーを演じた映画『ヒメアノ~ル』(’16年)や、娘の交通事故死をきっかけに暴走する父(古田新太)の姿を描いた映画『空白』(’21年)で知られる鬼才・吉田恵輔監督である。 「6年前の私は自分に飽きていて、自分のことがつまらなくて、このままではいけない。吉田さんだったら、私を変えてくれるかもしれない」 そう語る石原は30代を迎え、20代の頃に演じてきた役どころに飽きていた。“このままではいけない”という切実な思いから、この企画は始まっている。 「熱烈オファーを受けた吉田監督は『自分の世界観にあった役者を呼べば、思った通りの映画ができる自信があった。でもそれだと自分の予想を超えられない。あれだけ第一線でやってきた人と組むことによって想定外の扉が開かれそうな気がした』とコメント。 実際に今作は石原さとみにとっても、吉田恵輔監督にとっても、新章の幕開けに相応しい一本となりました」(制作会社プロデューサー) 撮影は、事件後に書き込まれたネットの誹謗中傷コメントに沙織里が怒りをあらわにするシーンからクランクイン。カメラが回ると、石原は涙を浮かべ鬼気迫るテンションで芝居に挑む。カットをかけた吉田監督から 「強い怒りはもっと後にやってくるから」 気持ちを抑えるように、指示を受ける一幕もあったという。 そしてクランクインして2週間が経った頃、石原の見せ場がやってくる。 「娘の失踪から半年が経ち、砂田(中村倫也)たちローカル局の撮影クルーがロングインタビューの撮影にやって来ます。『あの日から、全部が壊れちゃいました』から始まる長ゼリフ。 カットをかける度に石原のそばに寄り、言葉を尽くして自分の想いを伝え、辛抱強くテイクを重ねる吉田監督。感情のコントロールがつかず、自分がどこへ向かっているのかもわからない。追い込まれ抗う石原の姿は、劇中の沙織里そのもの。当時を振り返り『自分が崩壊しそうなぐらい苦しかったけれど、泣けてくるぐらい幸せでした』と話しています」(制作会社ディレクター) やがてロングインタビューの最中に「娘の美羽が見つかった」という知らせが入り、慌てて階段を駆け上がる警察署のシーンには、誰もが心奪われる。吉田監督から 「気持ちがぐちゃぐちゃになって、自分が何をしているのかも認識できなくなっている感じ」 で演じてほしい。そう言われた石原は、階段の下で気持ちを作る。そしてやって来た、セカンドテイク。そのシーンを思い出すと、私は今でも鳥肌が立つ。 「喜びと安堵、一刻も早く会いたい気持ちが入り乱れ、『美羽はどこですか?』と飛び込んでくる沙織里。その電話がいたずらであったことを知り、警察の人たちが目を背けたくなるような声で叫ぶ。 そのシーンを見た吉田監督は思わず、『(沙織里も石原さとみも)壊れた……』『見た瞬間、怖かったけど、思わずOKを出した』と告白しています」(前出・ディレクター) この演技とは思えない演技こそ、今作で石原さとみが手にした新境地ではなかったか。 実はこの場面。シナリオの決定稿には、沙織里が 「ショックのあまり失禁する」 と書かれている。しかしどうだろう。失禁するくらいで、熱量を持って沙織里を演じてきた石原の絶望を表現することができただろうか。署内に響き渡るほどの石原の慟哭。砂田(中村)が撮影を思わず止めてしまうほどの狂気が、このシーンには満ち溢れていた。 映画『ミッシング』は、結婚、出産を経て復活した、石原にとってまさに節目の作品。そして奇しくも長澤まさみ女優20周年を記念する映画『MOTHER マザー』(’20年)、宮沢りえが50歳にして新境地を開拓した映画『月』(’23年)。この二作も手掛けた河村光庸プロデューサーが「企画」で関わった遺作でもある。 女優・石原さとみを“新章へ”と導いた河村氏の凄腕には、改めて舌を巻くばかりだ――。 文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版
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