若手・中堅・シニアの“ジョブ・クラフティング”を、企業はどう支援すればよいか
● 経営層・管理職・人事部のとるべきスタンスは… 従業員がジョブ・クラフティングを行いやすくするため、企業の経営層・管理職・人事部はどのようなスタンスで支援すべきなのだろうか。 高尾 影響をいちばんもたらすのは管理職です。管理職のサポート姿勢が、部下のジョブ・クラフティング・マインドセットに影響を及ぼすと思います。部下の裁量を認めない管理職の下では、部下はジョブ・クラフティングをできないと思ってしまうでしょう。部下のジョブ・クラフティングを支援するためには、管理職がジョブ・クラフティングに理解を示し、部下が意思表示を行いやすいように「心理的安全性」の高い職場づくりを行うことが大切です。部下から「わたしの仕事を○○のように変えていきたい」という提案を受けた場合、内容次第では承認が難しいものもあるかもしれませんが、少なくとも、部下が主体的に提案を行うことをポジティブに捉える姿勢が必要でしょう。 経営層や人事部は、現場の社員たちに直接的に働きかけることは難しいですが、大きく2つの支援ができると考えられます。一つは、現場を支えている管理職のサポートです。具体的には、心理的安全性の高い職場づくり、ジョブ・クラフティングに挑戦しやすい職場づくりをしている管理職がより評価されるような制度・仕組みづくりです。もう一つは、ジョブ・クラフティングに必要な主体的行動を推奨する仕組みづくりや組織風土の醸成を促すものです。たとえば、ある企業では従業員自らの意志で挑戦する自主性を促す「手挙げ」が、経営者のイニシアチブで推進され、人材開発方針にも明記されています。 それ以外にも、従業員一人ひとりの人生の意義や働く意義を尊重することで、自律的・主体的な行動を促す「マイ・パーパス」や、企業目標と個人目標の連動により、従業員の主体的な行動を促す「OKR(*4)」への取り組みが挙げられます。これらの取り組みは、機械のように従業員を均一に捉えるのではなく、一人ひとりが個々の思いを持っていることを重視した仕組み・マネジメントという点で共通しています。 *4 OKR :Objective and Key Resultsの略。「目標(Objective)」と「主要な成果(Key Results)」を設定する目標設定・目標管理の手法。「企業全体のOKR→部署・チームのOKR→個人のOKR」のように落とし込むことで、企業目標と個人目標をリンクさせることができる。企業目標と個人目標のリンクにより、従業員の一人ひとりの当事者意識が高まるため、主体的な行動を期待できる。 高尾先生執筆の書籍『50代からの幸せな働き方』では、業務全体を俯瞰したうえで、ジョブ・クラフティングの対象業務や方向性を検討するためのエクササイズ「ジョブ・エナジー・エクササイズ」(以下、「ジョブ・エナジー」)を推奨している。 高尾 ジョブ・エナジーは研修として実施することを前提に開発したエクササイズですが、心理的安全性が確保されているような職場であれば、職場単位で実施してみるのも効果的です。お互いの具体的業務を知っているメンバー同士が、この人はどの業務から活力を得ているのか、それはどのように持ち味と紐付いているのか、どの業務が負担になっているのかといったことを共有することで、各メンバーの相互理解が深まるはずです。あるいは、上司と部下の意識のズレなどを修正することも可能です。本格的なジョブ・クラフティングまで至らなくても、トライアル的に試行してみるだけでも、ジョブ・クラフティングを実施しやすくする下地づくりとなり、意味があると思います。
永田正樹