J1昇格を狙うアビスパ福岡を変えたアパマンから来た新社長
経営改革でまず着手されたのが営業力の強化だ。それまで6人前後だった営業担当者が16人に増員され、1人が1日につき4社をアポイント訪問する日々が始まる。川森社長が言う。 「毎朝朝礼と掃除を終えた後の午前9時40分から、まずは営業会議です。前日にどこを訪問したのかという情報を、私を含めた全員で共有する。市民クラブである我々が福岡の地で何をしているのか。地域の企業の皆さまに対して、我々の理念といったものを自分たちから出向いてご説明して、そのなかからスポンサードしてくれる方々を募っていきました」 1日で最低でも合計64社を回れば、その数は1ヶ月で1200社を超える。1006社のうち、福岡の地元企業が約80%を占める理由が、足を使った地道な営業活動にある。 さらに、チームの公式ホームページ上において、オフィシャルスポンサーの数を日々更新した。クリックすると企業名が出るようにした意図を、川森社長はこう説明する。 「トップチームもハードワークを追求しながら、勝ち負けという結果が週に1回は明確になる。ならばフロントも数字を掲げることによって、自分たちにプレッシャーをかけるわけです。到達したときの達成感もありますし、数字を明示することによってファンやサポーターの方々も一緒になって追いかけてくれる。数字を掲げることの大切さは、サッカーの現場もフロントも変わりません」 1万人という具体的な数字を掲げた平均観客数にも、オフィシャルスポンサー獲得と同じ考え方が込められていると川森社長は力を込める。 「毎日の営業会議で、何人にお声掛けをして、そのうち何人の来場を見込んでいるという集客目標を営業担当に報告させました。具体的な数字を対外的に掲げることで、ファンやサポーターの方々も家族や友人を誘うようになります。我々としてはイベントを数多く企画する、あるいは小さな子ども向けの遊具を設置するなどして、まずライト層のお客様に足を運んでもらいました。一度でも来ればサッカー専用スタジアムで迫力がありますから、次回もと思った方々がリピーターになってくれる。そういう作業を1年間繰り返してきました」 営業改革に近道はない。企業経営もJクラブ経営も「突き詰めていくと、やるべきことは一緒になる」と考えていた川森社長は、最近になってスポーツならではの価値を感じ始めているという。 「ハートが伝わってくるというか、PL(損益計算書)とBS(貸借対照表)上のキャッシュフローだけではないものがありますよね」 準決勝で激突する長崎とは、リーグ戦では2試合ともにスコアレスドローに終わっている。しかし、いまの福岡には絶対的な武器が備わっている。 岐阜戦でも2ゴールを放つなど、高い決定力と前線からの献身的な守備で圧倒的な存在を放つFWウェリントンを獲得したのは7月。長崎戦はアウェーが加入前で、チーム戦術にフィットしていなかったホームでは後半途中からの出場だった。 福岡のレベルを引きあげたウェリントンを完全移籍で獲得する資金を捻出させた源は、川森社長のもとで強化された経営力。盤石なフロントがトップチームの快進撃を導き、ファンやサポーターの関心を呼び起こす好循環が、いまの福岡には力強く脈打っている。 「できるだけ多くのファンやサポーターの方々に来ていただいて、福岡の思いを届けてほしいですよね」 引き分けでも勝利扱いとなるアドバンテージを得ながら、過去3回のJ1昇格プレーオフで3位のチームは頂点に立ったことはない。不吉なジンクスを吹き飛ばす無類の強さがピッチの選手たちから、大声援と熱気が超満員のスタンドから発せられる光景を川森社長は思い描いている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)